編集長から 「新潮」7月号
総力特集 太宰治歿後五十年
本誌発売前から、NHKテレビや新聞各紙が大きく報
じたように、今号の「特集・太宰治歿後五十年」は、御
遺族の全面的な協力を得て、スクープの目白押しとなり
ました。新発見の「人間失格」草稿一五七枚は、安藤宏
東大助教授が精密なテキスト・クリティックを遂行した
結果、従来言われていた自伝的な要素に増して、作者が
主人公大庭葉蔵をより客体化し、「第二の物語」を創出
していくプロセスが明らかになりましたし、初公開の井
伏鱒二との往復書簡からは、はしなくも師弟の「最後の
行き違い」が炙り出されました。カラーグラビア(遺書
ほか)、弔辞も必見なら、エッセイ(野原一夫、矢代静
一〔遺稿〕、井上ひさし、長部日出雄ほか五氏)、対談
(古井由吉・佐伯一麦氏、久世光彦・町田康氏)、アン
ケート「太宰治・私の一作」(安岡章太郎ほか十四氏)
と、太宰文学に魅了された識者が多数参加して、様々な
角度からその魔力を語ったページも画期的なものです。
総力特集の成果を、ぜひお楽しみください。
李恢成氏の特別寄稿は、「韓国国籍取得の記」。金大
中政権の誕生を機に、日々の苦難を共にしようと「朝鮮」
籍からの変更を決意するに至った経緯を、在日文学者と
しての体験を踏まえ、良心を賭して信条告白します。
第十一回三島由紀夫賞は小林恭二氏の「カブキの日」。
二年ぶりの小説受賞で、前半部約二〇〇枚を抜粋しまし
た。柴田元幸氏選・訳の「記憶を巡る三つの小さな物語」
は、選者の個人的な好みで選んだ本邦初訳英語圈作家
「非先端、時代錯誤」三人集。なお、小説と評論の二部
門に分け、選考委員を五氏とした新潮新人賞<新>応募
規定も発表しました。
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