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編集長から  「新潮」8月号
驚異の新人の投稿を巻頭一挙掲載
 京大法学部在学中の学生の投稿作品を巻頭一挙掲載し
ました。平野啓一郎君の「日触」二五〇枚。もちろん、
異例中の異例ですが、ルネッサンス前夜のフランスの寒
村を舞台に、異端と聖性の問題を追求した本作は、その
高度な内容と荘重な文体で、三島由紀夫の再来かと、小
生を驚喜させました。弱冠23歳、ポスト・モダン総崩れ
の中で、出るべくして出た才能に、ご声援を。
 これと併せての特集が、「21世紀への新人たち」。柳
美里、町田康、阿部和重、角田光代、目取真俊、見沢知
廉、辻仁成と、最近登場して、めきめき力をつけてきた
注目の作家七氏を、同世代の若手評論家が、長所と課題
の両面から論じます。批評家・文芸記者26人によるアン
ートは「いま最も期待する新鋭作家」。七氏以外で複数
票を得たのは、藤沢周、車谷長吉、笙野頼子、三浦俊彦、
松浦寿輝、藤野千夜、多和田葉子の諸氏でした。
 その他、小説は小川国夫氏「プロヴァンスの坑夫」、
山田詠美氏「瞳の致死量」の二短篇が、ヴェテランの冴
えを見せ、高樹のぶ子氏「燃える塔」一〇〇枚は、「眠
れる月」「海からの客」「鳥たちの島」と続いた連作
「FURUSATO」を、鮮やかに締め括ります。
 小田実氏の長編評論は、大震災から三年半、復興の掛
け声とは裏腹に荒廃が深刻化する西宮の市街を眼下に、
ギリシアの哲人ロンギノスに思いを馳せ、「動かす人間」
にも「動かされる人間」にもならずに、「文」で「全体」
に対峙した「戦後文学」の作家たちへの共感を語ります。
 なお、吉村昭氏会心の歴史小説「生麦事件」は、今号
で連載が完結しました。単行本は九月刊行の予定です。