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第十二回 三島由紀夫賞発表

 
各記念品及び副賞百万円

〈受賞作〉
ロックンロールミシン 鈴木清剛

(平成十年六月河出書房新社刊)

鈴木清剛 〔受賞の言葉〕
駅から五分ほどの所に、僕の住むアパートはある。ベランダから、オレンジ色の電車と黄色い電車が行き交うのが見える。だから電車の窓からも、自分の住むアパートが見えるはずなのに、いつ乗ってもどんなに目を凝らしても、探しだすことができないでいた。あの辺りにあるのだということは分っている。けれどまたたくまに、見当を付けているその場所は、横に流されていく。あるとき、同居人が教えてくれた。この建物は遠くから見ると、頭で考えているような形をしていないのだと。翌日、僕はアパートをみつけた。移り住んでから一年以上も過ぎていた。受賞が決まったときの突き抜けていく感じは、あのときの気分に、どことなく似ている。

 

〈受賞作〉
おぱらばん 堀江敏幸

(平成十年七月青土社刊)

堀江敏幸 〔受賞の言葉〕
思いがけない贈り物を頂いた気分で、いまだに実感が湧いてきません。あまり欲を出さず、身の丈にあった書き方を続けて来たのが幸いしたのでしょうか。ただひとつ確かなのは、「私」という人称で語りはじめた途端、自分は虚構のなかにいるのだとの意識を最後まで失わなかったことです。その意味で、拙著は完全なフィクションだと言わざるを得ません。ただし感謝の辞を述べているこの私は例外です。本当にありがとうございました。

 

〈過去の受賞作〉
第一回 高橋源一郎「優雅で感傷的な日本野球」
第二回 大岡玲「黄昏のストーム・シーディング」
第三回 久間十義「世紀末鯨鯢記」
第四回 佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」
第五回 受賞作なし
第六回 車谷長吉「鹽壷の匙」 福田和也「日本の故郷」
第七回 笙野頼子「二百回忌」
第八回 山本昌代「緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道」
第九回 松浦寿輝「折口信夫論」
第十回 樋口覚「三絃の誘惑 近代日本精神史覚え書」
第十一回 小林恭二「カブキの日」

第十二回三島由紀夫賞は、平成十一年五月十三日に選考会が行なわれ、鈴木清剛『ロックンロールミシン』、堀江敏幸『おぱらばん』、東浩紀『存在論的、郵便的ジャック・デリダについて』、大塚銀悦「久遠」、辻征夫「ぼくたちの(爼のような)拳銃」、赤坂真理『ヴァニーユ』の候補作六篇について選考した結果、右のような結果をみました。(選考の対象は、小説、評論、詩歌、戯曲で、平成十年四月から平成十一年三月までに発表された作品です。)

財団法人 新潮文芸振興会