遊廓が消えて60年。しかし日本各地には、奇跡的に往時の姿を留める現役の元遊廓の旅館が存在する。宿泊は女性一人でもOK。独特の意匠を誇る廓建築の宿へ、ディープに案内します。
 
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とんぼの本編集室だより 2018/09/26
遊廓が消えて60年。しかし日本各地には、奇跡的に往時の姿を留める現役の元遊廓の旅館が存在する。
宿泊は女性一人でもOK。独特の意匠を誇る廓建築の宿へ、ディープに案内します。
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現役営業中! 元妓楼旅館が語るもの
とんぼの本編集室
 かつてわが国には公娼制度があり、戦後まで公然と売買春が行われていたことはご存じだろう。昭和33年(1958)4月、売春防止法の施行により公娼制度は廃止され、いわゆる「遊廓」は日本地図上から消え去り、娼妓たちも去っていった。残った建物は、それまでの経営者の住居となったものもあれば、職業変えしてアパートや店舗となったものもある。60年を経て、そのほとんどは老朽化や高度成長期の開発のために、取り壊されてしまったけれども、奇跡的に遊廓時代の姿を留めるケースがある。旅館へと生まれ変わった「転業旅館」だ。現役営業中の元妓楼旅館が、各地の港町や門前町、繁華街にわずかながらも存在している。
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左/伊勢神宮の外宮と内宮をつなぐ参道には、かつて古市遊廓があった。麻吉旅館は往時の情緒を今に伝える。
右/大阪の飛田新地、鯛よし百番の日光の間。天井には水墨画の「雲竜図」。
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青森県八戸市・新むつ旅館のY字階段。天窓からの陽が黒光りした階段を照らす。いまにも遊女たちが下りてきそうだ。
 中国・旧満州に残る元遊廓を訪ねたことから廓建築に魅せられたカメラマン、関根虎洸ここうさんが、3年にわたって全国の元遊廓の宿を取材。このたび『遊廓に泊まる』として刊行される。予想していたことだが、取材対象を探すことから難航。元遊廓であることを公表している宿は少なく、探しあてても断られてしまったことも。それでも丹念に取材を重ね、14の元妓楼旅館を収載できた。築浅でも60年余、古いものでは築100年をゆうに超える廓建築を内外隅々まで撮影した労作だ。
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古い町並みの「ならまち」の端に位置する奈良市の静観荘。大きな唐破風のある玄関前に、ご主人の愛車ホンダS800。
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山口県萩市・芳和荘の2階に広がるロの字型の回廊。各部屋の扉を開けると、手入れの行き届いた中庭が見渡せる設計。
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広島市・一楽旅館。扇形にくりぬかれた意匠が艶めかしさを醸し出す。
 大きな破風屋根をつけた玄関、娼妓たちの「顔見世」の場となった大階段、中庭をぐるり囲んだ回廊、壁や床に施された華やかな意匠……かつて宮大工や専門の建築家たちが腕を振るい技巧を凝らした、遊び心に満ちた造りを目の当たりにすると、元遊廓という「負」の歴史を意識する一方で、その重厚な美しさには新鮮な驚きをもって圧倒されてしまう。
「各々の建物からなにかを語りかけられているような体験だった」と関根さん。本書で紹介する旅館は誰でも泊まれる、自信を持ってお勧めできる宿ばかりという。ぜひ宿泊して、「遊廓を体験」し、自身でその建物が語るものを感じてほしい。
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多津美旅館に残るステンドグラス。

『遊廓に泊まる』関根虎洸/著
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とんぼの本棚から
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