次の時刻

  

 23:56 浅草駅
 山脇祐子
(やまわき ゆうこ)


     英介の手をつかんで、祐子は階段を駆け下りた。
 
 すでに電車が入っている。あれに乗らなければ……。
 あいつが追いかけてくるわけはないと思いながら、しかし祐子は走らずにいられなかった。
 
 もういやだ。もう、絶対に、いやだ。
 
「渋谷行の電車、まもなく発車いたします。ご乗車になりまして、お待ちください」
 
 階段を下り、そのまま英介の手を引いて電車に飛び乗った。
 空席だらけの電車だった。
 英介を座席の一番端に座らせ、その隣に腰を下ろすと、祐子は、ふう、と息を吐き出した。
 
「間に合った……よかったね、英ちゃん」
 英介が、眠そうな顔で母親を見上げた。
 
 ドアが閉まり、祐子は英介の肩をぎゅっと抱きしめた。
「いたいよ」
 英介が言った。

 
    山脇英介

   次の時刻