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 23:56 浅草駅
 山脇英介
(やまわき えいすけ)


     母親に握られた手が痛かった。
 
 そんなに、ぎゅっとつかまなくても走れるよ。運動会で1番だったの覚えてないの?
 ほら、転びそうになったじゃないか!
 
 駅の放送が、電車が発車するから乗ってください、と言っている。
 
 あしたの学校はどうすんだよ……と、英介はホームを走りながら思った。
 こんな真夜中に電車に乗ったら、うちに帰れなくなっちゃうじゃないか。どこから学校に行ったらいいのさ。
 羽がついてたら、飛んでいけるけどね。たかしくんところのオウムみたいに、緑色の羽がついていれば飛べるんだけど。
 
 電車に飛び乗ると、英介はシートの一番はじっこによじ登った。
 
 地下鉄はつまらない。外が見えないし、うるさい。変なにおいがするし、ほんのちょっとだけこわい。ほんのちょっとだけだけど。
 
「間に合った……よかったね、英ちゃん」
 
 母親が英介の肩を抱きながら言った。
 ほんとによかった、と英介も思った。寝ていってもいいんでしょう? 眠たいんだもの。
 母親が、肩を抱いている手にぎゅっと力をいれた。
 
「いたいよ」
 
 言いながら、英介は母親を見上げた。
 地下鉄じゃないほうがよかったけどなあ。
 
 どこかのおじさんが、向こうで「出発、進行!」と声を張り上げた。
 英介は、ちょっぴりおかしくなって、笑った。

 
     母親  どこかの
おじさん

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