いい気味だ。 と、淳一はシートの上で足を組み替えた。 オフクロをバカにしたのがいけないのだ。 口からでまかせの嘘をつきやがって。オフクロが、そんな男とラブホテ ルに行くわけないじゃないか。出口でかち合わせしたなんて、言っていい 嘘と悪い嘘がある。 死ねばいいんだ。あんなやつ、死んじまえ。 淳一は、大きく息を吸い込み、車内を見回した。 この先頭車両に乗っているのは、淳一と、向こうに座っているジャンパ ーの男だけだった。 気持ちの悪い男だな、と淳一はジャンパーの男を見ながら思った。 一人でぶつくさ言いながら、なにがおかしいのかニタニタ笑っている。 酔っ払っているのかもしれない。 いまごろ……と、淳一は人気のないホームに目をやりながら思った。 いまごろ、あいつは目を覚まして慌てているに違いない。自分が真っ暗 な地下の物置に閉じこめられているのに気づいて、真っ青になっているだ ろう。 いい気味だ。 ドアの錠前を掛けてきてやった。窓もない地下室で、ドアは外から錠が 下りている。がっしりしたドアだ。 「重いんだよ」 と、あいつは自慢して言っていた。 「シェルターにも使えるように作った鉄製のドアだから、工事のとき、運 び込むのが大変だったんだ。8人で運んだんだぜ。汗だくになって」 だから、開かない。ドアは壊せない。 どうするよ、おい? 死んでしまえよ。その自慢の地下で死んでしまったらいい。 いまさら、謝ったって遅いんだからな。ドアには錠をかけてきたし、そ の鍵は隣の家の庭に放り込んできた。せいぜい後悔すればいい。後悔して、 死んでしまえばいい。 発車のベルがホームに鳴り響いた。 アナウンスに続いて、ドアが閉まる。 その途端、淳一は、はっとして顔を上げた。 ほんとに、死んでしまうだろうか……。 |
![]() | ジャンパーの男 |