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正面の窓の外を、黒い壁が右から左に流れている。
英介は、その壁をじっと見つめていた。
壁の上を、太いパイプが走っている。壁と同じように、やっぱり黒くて
汚れている。黒いパイプが、黒い壁の上を、ヘビのようにグネグネと動い
ていた。
ちょっとだけ、こわかった。
こわいけれど、英介はその黒いヘビから目が離せなかった。壁から首を
もたげ、この電車に入ってくるんじゃないかという気がした。
そんなこと、あるわけないじゃん。
英介は、そんな子供っぽいことを考えた自分がおかしくなった。
あれはね、壁にくっついてるの。動いてるように見えるけど、ほんとは
そうじゃないの。大工さんが、かなづちでトントンってたたいて、釘でく
っつけてあるの。だから、こっちには来ないんだよ。
うん、と英介は小さくうなずいた。
もし、あれが、そうじゃなくて、こっちに入ってきたとしても、コルト
・ガバメントで殺してしまえばいい。
コルト・ガバメント……英介は、もう一度、小さな声でその言葉を言っ
てみた。
すげえ、かっこよかった。
マガジン入れて、セイフティ外して、それから上のとこ握って後ろに引
っぱる。
ばきゅーん!
ズボンのベルトの後ろのとこに、はさんでおくのが正式なんだ。
で、抜いたら、両方の手で持って、天井に向ける。人のほうに向けると
危ないから。殺人犯人がきたら向けていい。
ばきゅーん! アイル・ビー・バック!
こんど、また、たかしくんのお兄ちゃんにさわらせてもらうんだ。
コルト・ガバメント。
なんだか、とっても気持ちがよかった。
目を閉じていると、ほんとに気持ちがいい。
だって、眠いんだもん。
英介は、夢の中で、太くて黒いヘビを撃ち殺した。
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