母親に握られた手が痛かった。 そんなに、ぎゅっとつかまなくても走れるよ。運動会で1番だったの覚 えてないの? ほら、転びそうになったじゃないか! 駅の放送が、電車が発車するから乗ってください、と言っている。 あしたの学校はどうすんだよ……と、英介はホームを走りながら思った。 こんな真夜中に電車に乗ったら、うちに帰れなくなっちゃうじゃないか。 どこから学校に行ったらいいのさ。 羽がついてたら、飛んでいけるけどね。たかしくんところのオウムみた いに、緑色の羽がついていれば飛べるんだけど。 電車に飛び乗ると、英介はシートの一番はじっこによじ登った。 地下鉄はつまらない。外が見えないし、うるさい。変なにおいがするし、 ほんのちょっとだけこわい。ほんのちょっとだけだけど。 「間に合った……よかったね、英ちゃん」 母親が英介の肩を抱きながら言った。 ほんとによかった、と英介も思った。寝ていってもいいんでしょう? 眠たいんだもの。 母親が、肩を抱いている手にぎゅっと力をいれた。 「いたいよ」 言いながら、英介は母親を見上げた。 地下鉄じゃないほうがよかったけどなあ。 どこかのおじさんが、向こうで「出発、進行!」と声を張り上げた。 英介は、ちょっぴりおかしくなって、笑った。 |
![]() | 母親 | ![]() | どこかの おじさん |