![]() | 23:57 田原町駅 |
再び口を閉ざしてしまった加奈子を、矢萩はゆっくりと眺めた。 小柄だが、身体つきは悪くなかった。というよりも、むしろ、これなら上等の部類に入る。丸みを帯びた胸も気に入ったが、なによりも尻の肉づきがよさそうだった。絞ったウエストから、ぐいっと腰がひろがっている。この位置からではフレアスカートの下の足が見えにくいが、それはおいおい鑑賞させてもらうことにしよう。 問題は、どうやってこの女をその気にさせるかだ、と矢萩は思った。 無理矢理、というのも悪くはないが、できるなら女に自分から足を開かせたい。 「1番線に参ります電車、渋谷行です」 アナウンスが、ホームに響いた。 まずは、とにかく、オレと加奈子が同じ被害者だということをわからせてやることだ。 今のところ、加奈子は亭主に腹を立てている。そして、瑞枝に腹を立てている。さらに、まずいことに、オレにも腹を立てているのだ。加奈子にとってみれば、女房を寝取られたオレも、瑞枝側にしか見えていないということだ。 これを、なんとかしなきゃならない。 「教室で会ったんだと思うね」 言うと、加奈子が矢萩を振り返った。 「なに?」 「他に考えられないからさ。旦那とウチの女房が会ったのは、踊りの教室だよ」 「なに言ってんの? あんた」 突っかかるような口調で、加奈子が言う。 「浅草と北千住、そんなに離れてるとも言えないが、近くもない。出会うチャンスなんて、他にあるわけないからな」 「バカ言わないでよ。ウチの人、教室なんか通ってないわよ」 「旦那が通ってなくても、あんたが通ってるだろう?」 ピクリと、加奈子の肩が動いたのを、矢萩は見逃さなかった。 「迎えに来てもらったこととか、あるんじゃないか?」 「迎え?」 「ああ、教室が終わってさ、あんた旦那に迎えに来てもらって、クルマで帰るとか、あったんじゃないか?」 加奈子が、向かいのホームへ目をやった。 「なかったか? そういうこと」 「あったけど……」 ほんの少し、加奈子の口調が弱くなった。 「な。やっぱりそうだ。そのときにさ、旦那はウチのヤツに目をつけたってことだよ」 キッ、と加奈子がにらみつけてきて、矢萩はまずかったかなと手を握りしめた。 「逆でしょ。あなたの奥さんが、ウチの人に目をつけたのよ!」 ふん、と矢萩は線路のほうへ目をやった。 「似たようなもんだ」 ひっぱたいてやろうか、と矢萩は思った。 |
![]() | 庄司加奈子 |