|
秋ちゃんに相談してみよう、と祐子は思った。
この前のときは、とても家をあけられる状態じゃなかったし、せっかく
声をかけてくれたのに断わってしまったけれど、もしかしたらまだ仕事が
あるかもしれない。
もう決まっちゃっただろうか……秋ちゃんと会ったのは、あれは……半
年?
いやだ、もう、半年も前になるんだわ。
決まっちゃったかなあ。半年も店員さんなしでやっていられるわけがな
いし、決まっちゃったんだろうなあ。
ああ、どうして、あのとき、パートでもいいから引き受けておかなかっ
たんだろう。1日2時間でもいいからって、秋ちゃん、言ってくれてたの
に。2時間ぐらい、どうにかなっただろうに。
ううん、だめだ――と、祐子は首を振った。
たとえ2時間が1時間だって、あの人が許すわけはない。言えば殴られ
るにきまってるし、内緒で働きに出るなんて不可能だ。お義母さんに告げ
口されてしまう。
電車がスピードを落とし、田原町駅に着いた。
真ん中のドアから男の人と女の人が乗ってきた。二人は、前のほうの席
へ歩いて行った。
ドアが閉まり、電車が再び動き出すと、左の腕に押しつけられていた英
介の頭が、ゆらりと揺れた。祐子は、そっと英介の頭を押さえた。
とにかく、なにか仕事を探さなくちゃ。
祐子は、自分に言い聞かせた。
実家に置いてもらうのも、ひと月が限度だろう。それ以上は、あたし自
身、いやだ。お父さんは何も言わないだろうし、お母さんも事情を知って
いるから、いつまでいてもいいと言ってくれるだろうけど、近所の目がい
やだ。
ひと月の間に、仕事を探して、英介と暮らす部屋をみつけて……いや、
まず、英介の学校をどうにかしなきゃいけない。
とりあえずは、あたしが電車で学校まで送り迎えするとしても、ずっと
そんなことは続けられない。
どうしようか……。
学校のことを、なにも考えていなかった。
転校させるって、できるんだろうか?
祐子は、腕にもたれて眠っている英介の顔を、そっと見つめた。
|