敏弘は、階段を降りながら、思わず腕時計に目をやった。 ちょうど12時だった。
「あ」 不意に、最下段に座っていた男が目の前に立ち上がり、敏弘は、ギョッとして足を止めた。 「あ、すみません」 男が言い、敏弘は、自分の上げた声にいささか照れながら、首を振った。 「いいえ」 男の横を通ってホームへ降りた。
昨日は11時45分、一昨日は11時半、か。 ホームを歩きながら、敏弘は前髪をかき上げた。 15分ずつ、遅くなってるな。
いいかげんなところで立ち止まり、ポケットに手を突っ込んだ。 おうちが、だんだん、遠くなる……か。 なんとなく、頭の中で節をつけて思った。
新婚一ヶ月目のこういう状態って、やっぱり異常なんだろか。 千秋は……まだ寝てないよな。寝てるわけ、ないな。 敏弘は、肩の上で、ぐるりと頭を回した。