たんのしたね――〈単の下〉?
綾佳は、視線を宙に上げた。
〈単〉という字を上と下に分解する。下は……。
〈十〉だ!
10号室。
と問題に目を返し、いや……と首を振った。
〈単の下ね〉と読めば答えは10になるが、もしこれを〈旦の下ね〉と読んだら、1号室になってしまうではないか。
こういうパズルに、解答がいくつもあるはずはない。
ちがったか……じゃあ、なんだろう?
ジュディだから、10-D、なんて、そんなんじゃないだろうし――とにかく問題には「案内状に部屋の番号を書いといた」と書かれている。この7行の案内状の中に答えがあるはずなのだ。
引っ越しました。
ようやく家具を運び入れたと思ったら、そのあとが大変。
フライパンの油をひっくり返してしまったの。
おかげで新品のカーペットが台無し。
ぜんぶ取り替えることになっちゃった。
新しい部屋に遊びにきてね。
ジュディ
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内容から考えると、案内状で言っていることは3つしかない。
[1]引っ越したということ。
[2]フライパンの油をひっくり返して、カーペットを取り替えたこと。
[3]遊びに来いという招待。
このうち、[1]と[3]は、案内状なのだから書かれていて当然……。
綾佳は、ふん、とひとつうなずいた。
とすると、問題なのは[2]――つまり、真ん中の4行ではないのか?
読み返してみると、ちょっと不自然な文章だ。
カーペットを取り替えたなんてことを案内状に書く必要はない。余計なのだ。
なぜ、余計なことを書き込んだか? つまり、そこに部屋の番号を隠しているからだ。
綾佳は、もう一度うなずいた。
よし、ひとつずつ考えてみよう。
結論は、カーペットを取り替えた、というものだ。
それ自体が、部屋の番号を表わしているだろうか? 「取り替える」というのは、なんとなく暗号文解読のヒントのようにも読める。
いや、ちがう。
ヒントとして必要なものが、取り替えることであるなら、部屋が新しくなったから家具もカーペットもなにもかも取り替えたとだけ書けばいい。油をこぼしただの、新品のカーペットが台無しになっただの、そんな余計なことを書く必要はない。
そう、解読のカギは、余計なことにあるのだ。
では、カーペットが台無しになったというのがカギか?
そうではないだろう。
カギが、カーペットがダメになったことであるなら、「汚したから」とだけ書けばいい。
フライパンの油をひっくり返してしまったの。
これが、カギなのではないか?
そして、次の瞬間、綾佳は大きくうなずいた。
そうか、ひっくり返せばいいんだ――!
顔を上げたとき、向こうにいるオヤジと目があった。
オヤジは、戸惑ったように目をそらせた。
「…………」
なんとなくイヤな感じがして、綾佳はすこしだけ右へ移動した。
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