手すりのパイプに身体を預け、米村は気分を変えようと車内を見渡した。
向こうのシートに座っている背高ノッポに、ふと目が止まった。
なんだ? あのヤロ。
背高ノッポは、膝の上に黒いパソコンを載せていた。
ノートパソコン、というヤツだ。
パソコンの画面とニラメッコをやっている。
ははあ……。
と、米村はうなずいた。
あれが、オタクってヤツだ。現実逃避型人生を送ってるヤツだ。秋葉原とカメラのさくら屋あたりに出没して、ひたすら部屋に閉じこもってセンズリばっかりかいてやがる青二才だ。
ああいう連中の人生は、みんな箱の中なんだ。
馬鹿だから、自分が箱の中に閉じ込められてることもわからない。
皆殺しにしてやるべき人種だ。
あんなの殺すのは簡単なんだよ。
パソコン取り上げて、地面に叩きつけてぶっこわしてやりゃいい。そうすりゃ、ヤツらはなにもできなくなるんだから。
いや、ホント。
米村は、ノッポのパソコンオタクを睨みつけた。
ノッポは米村の視線に気づかず、パソコンの画面を見つめているだけだった。
それにしても変な野郎だ。
キーボードを打っているわけでもない。ただ、間抜けなツラで画面を見ているだけだ。
たぶん、女のヌードでも見ているんだろう。
そう、あいつらはパソコンで女の裸を眺めるのが好きなのだ。
インターネットってのは、ポルノを見るためのものだっていうしな。警察も取り締まってるし、アメリカではFBIなんかもインターネットを目の敵にしてるって話だ。
そのポルノの胴元だかなんだかが、ビル・ドイツとか、ビル・タイツとかいうヤツ。ポルノですげえ儲けたっていうじゃないか。
結局、あのノッポのオタクもわかってないんだよ。お前は、ビルの野郎に、いいようにむしられてんだぜ。カモにされてるだけってことがわかんねえのかよ。
馬鹿だね、しかし。
哀れな男だよ。
米村は、ため息をついた。
生身の女を見ろってんだ。
お前、生身の女を前にしたら、ガタガタ震え出すんだろう。ションベンちびって、おかあさーん、とか泣き出すんだろう。
「馬鹿が!」
あいつの頭の中は、妄想だらけだ。
ヘアヌードと、コンピュータウィルスしかない。
そのあげく、現実と妄想の区別ができなくなって、軍隊のコンピュータに進入して、核ミサイルの発射スイッチを入れちゃうのだ。
つまり、あいつらは世界を滅亡に導く、悪魔のような連中なのだ。
殺すべきだ。
根こそぎ退治しておくべきだ。
そう。
あいつらは、ほっておくと手に負えなくなる。
電線伝って悪さをするからな。そこら中のコンセントから、ニュルニュル這い出して電気製品を手当たり次第オシャカにしちまう。
考えてもみろ。今の時代、電気がきてない家ってのがどれだけある? そんなの一軒もないだろうが。
全部乗っ取られちまうってことなんだぜ。
だから、ああいうオタク野郎は生かしておいちゃいけないんだ。
ゴキブリと同じだからな。一匹見つけたら、その場で殺しておくべきだ。
ぶっ叩いて、蹴り上げて、木の枝につり下げて、皮を剥いで、ノコギリでバラバラにしてやって、粉々にすりつぶして、ションベンぶっかけてやるべきだ。
そうしておかないと、電線の中で繁殖して、世界を滅ぼしちまうんだから。
米村は、ポケットのナイフを握りしめた。
気を鎮めようと思っていたのに、さらに興奮してきてしまった。
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