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 24:06 神田駅
 秋葉博
(あきば ひろし)


     いきなり、飛沢がホームを走り出した。電車がゴウゴウと音を響かせながら入ってきていた。

「走れえっ!」

 きったねえ……と、思いながらヒロシは飛沢を追いかける。時間稼ぎだ。思いつかないもんだから、逃げてやがる。
「待てよ! なんでそんなほうまで行っちゃうんだよ、このバカ野郎」
 どんどんホームを走っていく飛沢に声を上げた。

 飛沢は、とうとう先頭の車両まで走り、ちょうど開いたドアから電車に飛び込んで行った。その飛沢にぶつかりそうになったオッサンが、怒ったような顔をして降りてきた。その後ろから、ちょっと色っぽい奥さんが続いて降りる。ヒロシは、その奥さんを目で追いながら電車に乗った。
 さっさとシートに腰を下ろしている飛沢の隣へ座る。南雲のバカが前に立った。

「オズ、飛沢の番」
 と、ヒロシは飛沢に言った。
「オズって、オズの魔法使いのオズ?」
 前で、南雲のバカが訊く。ヒロシは、ふん、と鼻で笑って無視した。
「早く!」
 飛沢に迫る。

 飛沢は、くさった顔をしてボソリと言った。
「エメラルド・シティ」
 ヒロシは思わず吹き出した。
「なんだ、きったねえ」
「なんでさ」
 飛沢がヒロシをにらみ返す。
「だって、同じじゃん。オズとエメラルド・シティじゃ」
「オズの首都がエメラルド・シティ。日本と東京は別モンだろ。同じじゃねえよ」
 飛沢は屁理屈をこねてそう言った。

 ドアが閉まって、電車が動き出した。

「なあ、エメラルド・シティって、オズの魔法使いに出てくるエメラルド・シティか?」
 南雲のバカが、寝惚けた声で言った。


 
     飛沢  飛沢にぶつかりそうに
なったオッサン
    ちょっと
色っぽい
奥さん
南雲のバカ

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