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 24:06 神田駅
 南雲明久
(なぐも あきひさ)


     電車がホームに入ってきていた。ラッキーだった。

「走れえっ!」

 飛沢君秋葉君がホームを前のほうへ走っていく。明久は必死で二人を追いかけた。
「待てよ! なんでそんなほうまで行っちゃうんだよ、このバカ野郎」
 秋葉君が、飛沢君を追いながら叫んでいた。
 明久は、後ろの連中がちゃんとついてきているのか少し心配になって、走りながら振り返った。門田君がスキップするように飛び跳ねながら後ろを走っていた。

 一番前まで飛沢君が走っていったとき、ちょうど電車のドアが開いた。
 飛沢君が乗り込むのと入れ違うようにして、中年の夫婦がそのドアから降りてきた。明久は、秋葉君に続いて電車に乗り込んだ。門田君や、櫛部君たちも次々に乗り込んでくる。明久は、座席に着いた飛沢君と秋葉君の前に、吊革につかまって立った。

「オズ、飛沢の番」
 さっそく、秋葉君はゲームを再開して、飛沢君の答えを促した。
 やってみると、これが、結構面白いゲームだった。秋葉君は、こういうゲームを考えるのがうまい。才能のある人は、やっぱり違う。

「オズって、オズの魔法使いのオズ?」
 明久は、前の座席の二人に笑いかけながら言った。
「早く!」
 と、秋葉君が飛沢君をあおった。

 ボームの書いた『オズの魔法使い』っていいよなあ……と明久は思った。ああいう話を僕も書きたい。『オズの虹の国』『オズのオズマ姫』『ドロシーとオズの魔法使い』『オズの国を訪ねて』『オズのつぎはぎ娘』――あと、ええと、なんだっけ?

「エメラルド・シティ」
 飛沢君が言って、明久は、あ、そうか、と思い出した。
『オズのエメラルドの都』だ。

「なんだ、きったねえ」と、笑いながら秋葉君が言った。
「なんでさ」不機嫌そうな顔で飛沢君が訊き返す。
「だって、同じじゃん。オズとエメラルド・シティじゃ」
「オズの首都がエメラルド・シティ。日本と東京は別モンだろ。同じじゃねえよ」

 そうか、と明久はうなずいた。
 だとしたら、オズの周辺の国とか、そういうのを並べてもいいわけだ。それならいくらでも言える。赤い服を着た人たちが住んでいるカドリング国。青い服のマンチキン国。紫の服はギリキン国で、ウィンキー国の人たちは黄色の服だ。

「なあ、エメラルド・シティって、オズの魔法使いに出てくるエメラルド・シティか?」
 明久がそう言ったとき、電車が走りはじめた。


 
    飛沢君 秋葉君 門田君 櫛部君

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