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 24:06 神田駅
 姉崎小夜
(あねざき さよ)


     ホームの端に、勤め人風の若い男が立っているのを見て、小夜はようやく足を止めた。

 とにかく、腹が立って仕方なかった。
 線路の左手へ目をやると、接近してくる電車のヘッドライトが小さく見えた。困ったような表情で、知美が小夜の横に並ぶ。その向こうから、桐恵がふてくされたような視線を小夜に投げてきた。

「ごめんね」

 知美が横でそう言ったが、その言葉は、入線してきた電車の騒音に吸い込まれた。小夜は、知美の言葉が聞こえなかったふりをして、目の前をスピードを落としながら流れていく車両を見つめていた。
 最後尾車両が三人の前に停まる。ホームの右手で、学生らしい団体がバタバタと騒いでいた。

 ドアが開くと、小夜は真っ先に電車に乗り込んだ。空いた車内をさらに後ろへ歩き、一番後ろのシートへ腰を下ろす。知美が小夜の右に座り、桐恵はさらにその向こうに座った。

「ごめんね」

 また、知美が言った。
「あなたが、謝ることじゃないわよ」
 と、小夜は、前を向いたまま言った。正面に、バッグの上で書き物をしている女の子がいる。小夜たちと同じぐらいの年に見えた。

「でもさ」と、知美の向こうで桐恵が言う。「けっこう、あれが普通なのかもしれないね」
「普通?」小夜は、眉を寄せながら桐恵に訊き返す。「何が普通?」
 電車のドアが閉まった。
「理系の男の平均値って、あんなものかもしんないじゃん」
「冗談じゃないわよ」
 小夜は、言って顔をしかめた。

 電車が動き始めると、知美が、また横で「ごめん」と言った。


 
    勤め人風
の若い男
 知美   桐恵 
    バッグの上で
書き物をして
いる女の子

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