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ホームの端に、勤め人風の若い男が立っているのを見て、小夜はようや
く足を止めた。
とにかく、腹が立って仕方なかった。
線路の左手へ目をやると、接近してくる電車のヘッドライトが小さく見
えた。困ったような表情で、知美が小夜の横に並ぶ。その向こうから、
桐
恵がふてくされたような視線を小夜に投げてきた。
「ごめんね」
知美が横でそう言ったが、その言葉は、入線してきた電車の騒音に吸い
込まれた。小夜は、知美の言葉が聞こえなかったふりをして、目の前をス
ピードを落としながら流れていく車両を見つめていた。
最後尾車両が三人の前に停まる。ホームの右手で、学生らしい団体がバ
タバタと騒いでいた。
ドアが開くと、小夜は真っ先に電車に乗り込んだ。空いた車内をさらに
後ろへ歩き、一番後ろのシートへ腰を下ろす。知美が小夜の右に座り、桐
恵はさらにその向こうに座った。
「ごめんね」
また、知美が言った。
「あなたが、謝ることじゃないわよ」
と、小夜は、前を向いたまま言った。正面に、バッグの上で書き物をし
ている女の子がいる。小夜たちと同じぐらいの年に見えた。
「でもさ」と、知美の向こうで桐恵が言う。「けっこう、あれが普通なの
かもしれないね」
「普通?」小夜は、眉を寄せながら桐恵に訊き返す。「何が普通?」
電車のドアが閉まった。
「理系の男の平均値って、あんなものかもしんないじゃん」
「冗談じゃないわよ」
小夜は、言って顔をしかめた。
電車が動き始めると、知美が、また横で「ごめん」と言った。
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