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前をさっさと歩く小夜の後を、知美は必死で追いかけた。
完全に怒っている。小夜だけではない。後ろからついてくる桐恵も、怒
っている。
どうしよう……。
小夜がようやく足を止め、知美は彼女の横へ並んで立った。桐恵が、そ
こに並びかける。小夜と桐恵に挟まれる格好になった。
「ごめんね」
知美は、前を向いたまま小声で言った。
しかし、ちょうどその時電車がホームに滑り込んできて、知美の声はそ
の音にかき消されてしまった。
もちろん、二人を怒らせたのは信二のヤツで、知美ではない。しかし、
あいつに二人を引き合わせたのが知美なのだから、結果は同じことだった。
腹が立っているのは、二人同様、知美だって同じことだ。
今日の今日まで、信二があんなヤツだとは思わなかった。
電車が停まり、ドアが開いて、小夜がさっさとそこへ乗り込んだ。ガラ
リと空いたシートの一番端っこに、ドスンと座り込み、そのまま正面へ目
を向けている。
「ごめんね」
知美は、小夜の隣に座って、もう一度言った。右に、桐恵が腰を下ろす。
また、二人に挟まれることになった。
「あなたが、謝ることじゃないわよ」
怒った口調のまま、小夜が言う。
横で、桐恵が身体を乗り出すようにして口を開いた。
「でもさ、けっこう、あれが普通なのかもしれないね」
小夜が、初めてこちらを向いた。知美を越えて桐恵に訊き返した。
「普通? 何が普通?」
「理系の男の平均値って、あんなものかもしんないじゃん」
「冗談じゃないわよ」
小夜は、言いながら、チラリと知美に視線を寄越した。
電車が動き始めた。
知美は、溜息を一つついた。もう一度言った。
「ごめん」
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