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 24:06 赤坂見附駅
 湯川潤
(ゆかわ じゅん)


    「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」

 アナウンスの声に、前を歩いていた連中が走り出した。

「ほら、ジュンちゃん」
 みどりが湯川の手を取って走り出す。引っ張られるようにして、湯川も彼女に足をあわせた。

「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
 また、アナウンスが言っている。

 どうして、こういうことになっちゃったんだろう……。
 みどりと手をつないで走りながら、湯川はぼんやりと考えていた。

「あたしたち、再来月に結婚するの」

 そのみどりの言葉に、一番びっくりしたのは湯川自身だっただろう。わあ……と、歓声が上がり、わけがわからないまま乾杯させられ、みんなの前でみどりとキスを披露することになり……鏡の奴からは、バチバチと背中をひっぱたかれた。

 そんな約束、オレ、ほんとにしたんだろうか?

 アナウンスが、ドアを閉めるから早く乗れと言っている。
 一番前の車両まで来ると、鏡が「はい、乗った乗った」とみんなを電車に押し込んでいた。

「どぉも!」
 みどりが、そんな鏡に愛嬌を振りまきながら乗り込んだ。湯川は、そのみどりに手を引かれて電車に足を踏み入れる。
 全員の視線が、湯川とみどりに注がれていた。

「なんだ? みなさん、座らないの?」
 最後に乗り込んできた鏡が、場を仕切って言う。
「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
 最後のところは、湯川に言った。

「いや、その、主役って……」
 言うと、鏡は、ニタニタと笑いを返してきた。
 みどりに引きずられるようにして、湯川はみんなの視線を浴びながら座席に着いた。みどりが湯川の手を自分のスカートの上へ置いた。

「…………」
 顔を上げると、嘉野内真紀と目があった。
 真紀の顔は笑っていたが、それが作り笑いだということはすぐに見て取れた。彼女の眼は笑っていなかった。


 
    みどり 鏡の奴 嘉野内真紀

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