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 24:06 赤坂見附駅
 鈴木みどり
(すずき みどり)


    「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」

 構内アナウンスが告げている。
 みどりは、ジュンの手を握りしめた。
「ほら、ジュンちゃん」
 言って、みどりはそのジュンの手を引いた。みんなの後ろについて走る。ジュンは、何も言わずにみどりの手を握ったまま横を走っていた。

「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まってんの。まだ、時間、あるわよ」
 前のほうで美香が言った。言いながら走っている。

 とうとう見つけたんだ、とみどりは走りながら微笑んだ。
 こんなに幸せなことは、生まれてはじめてだった。

「いつまでもこうしていよう」
 ベッドで、ジュンからそう囁かれたとき、それがプロポーズの言葉だとわかるまで、少し時間がかかった。そうだということがわかって、とたんに涙が出てきた。
 嬉しくて、嬉しくて、幸せで、嬉しかった。

「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
 アナウンスが乗客を急かすように言っている。
 先頭車両のドアで、鏡くんがみんなを車内に誘導していた。
「はい、乗った乗った」
 みどりはジュンと一緒に真紀ちゃんの後ろについた。

 きっといい奥さんになる。
 みどりは、胸の中で自分にそう言った。
 みんなだって、こんなに喜んでくれているんだもの。幸せにならなくちゃ。そうじゃなきゃバチがあたる。

 どうぞ、と言うように鏡くんが微笑みながらドアの中へ手をさしのべた。
「どぉも!」
 みどりは、声を上げてジュンと一緒に電車に乗り込んだ。
 みんなが、二人を祝福するように見つめてくれていた。

「なんだ? みなさん、座らないの?」
 鏡くんが、言いながら乗ってくる。
「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
 鏡くんは、みどりとジュンに言った。

「いや、その、主役って」
 ジュンが照れたように頭をかいた。
 みどりは勧められるまま、座席にジュンと並んで腰を下ろした。ジュンと握り合った手を、スカートの上から、ギュッと自分の太股に押しつけた。

 鏡くんがニコニコと笑いながら、みどりを見た。
 えへ、と笑ってみどりは舌を出した。

 あたし、最後に、一番いい人に巡り合ったんだ。
 思いながら、みどりはジュンの手を強く握りしめた。


 
    ジュン 美香 鏡くん 真紀ちゃん

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