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 24:11 銀座駅
 郡山ことみ
(こおりやま ことみ)


     最大の問題って、てるみと組んでるってことなのよ。それが一番重大な問題。

 前を歩いていたてるみが急に立ち止まって、ことみは思わずつんのめりそうになった。もういいかげん、足はガタガタになっている。
 夜の銀座を終電ギリギリまで歩き回って、収穫なんてなんにもなかった。溜息が出る。

「どうすんの?」
 訊くと、てるみは首を振りながら首をすくめた。
「こういう日もあるさ」
「ずっと〈こういう日〉じゃん。おとといも、その前も」
「…………」

 人間観察は結構だけど、街歩き回って酔っ払い眺めて、それでネタが拾えるなんて、考え方甘すぎる。そう思わないんだろうか。思わないんだろうなあ、てるみは。
 やってみなきゃわからないって、何度もやってみて、その結果がこれなんだもの。

「お腹空かない?」
 訊くと、てるみはお腹をさすりながら、ふう、と息を吐き出した。
「空いた」
「どっかで、なんか食う?」
「また、ラーメン?」
「カネないじゃん」
「きまってんなら、最初から、ラーメン食う? って言いなよ」
「嫌い? ラーメン」
「好き」
「じゃ、文句言うなよ」

 だいたい、なんで、てるみと組まされちゃったんだろ。タイプとしてはてるみもツッコミ。あたしもツッコミ。ボケがいないじゃん。
 てるみは、舞台の上でツッコミあうってのも面白いかも、なんて言ったけど、ようするにそれって、喧嘩してるのとかわらない。女2人が舞台の上で喧嘩して見せて、お客さん、面白いかなあ。まあ、取っ組み合いの喧嘩やるなら面白いかもしれないけど……。

 ふと、ことみは、顔を上げててるみを見返した。

「ねえ。あのさ、思いっきり、取っ組み合いするって、どうかな?」
 言うと、てるみが眉を寄せた。
「取っ組み合い?」
「うん」
「なんの話?」
「だから、ネタ」

 不思議なものでも見るような目つきで、てるみはことみを凝視する。
「ネタ?」
「そう。掛け合いで舞台作るっていうよりも、舞台で身体使って取っ組み合いの喧嘩するの」
「それ……なによ」
「だから、ネタだって。ねえ、見たことある? そういうの」
「取っ組み合いの喧嘩してる舞台?」
「そう。投げ飛ばしたり、髪の毛つかんで引きずり回したり、跳び蹴り入れたり」

 不意に、てるみがそれまでの表情を変えた。
 どうやら、言いたいことが伝わったらしい。

「ええと、女子プロみたいに?」
「そうそう」
「思いっきり、小屋中に響き渡るような音立ててひっぱたいたり?」
「そう。最後、2人とも、アザだらけになって、並んで、ありがとうございましたーって、おじぎしておしまい」

 ふんふん、とてるみがうなずいた。
 ね? と、ことみは彼女の顔を覗き込んだ。


 
    てるみ 

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