![]() | 24:12 新橋-銀座 |
つまり、警告レベルが一段階上がったことを意味している。 しかし、P13AXが優れているのは、この程度の警告レベルなら、動作にはまったく支障が起こらないということなのである。 現実に、転倒によるダメージを受けたにも関わらず、P13AXは絶妙なバランスを維持し、起立姿勢を崩さずにいる。いかに優秀であるかという証左であろう。 しかも、ターゲットの捕捉にはいささかの狂いもない。これがP13AXが「完璧なマシン」と呼ばれる所以なのである。 《待避完了まで82秒です。すべての作業を放棄してください。構内に残っている方は、速やかに待避してください。これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません》 スクリーンに表示されるエラーメッセージに、若干の不具合が認められるが、これは通信系統の軽微なトラブルと思われる。 《ねえ、それマジで言ってんの? ちょーヤバくない?》 《火傷には、その程度によって3段階の呼び方がなされます。皮膚が赤くなり、表皮だけが冒されているものを第1度。真皮まで冒され、水ぶくれができる程度だと第2度。そして皮下組織まで破壊されるものは第3度と呼ばれます。皮膚の表面が白や黒に変色した症状では、完全に元に戻すことが困難になります》 《この子、すごい熱なの。おでこ触ってみて、ほら。病院に連れて行ったほうがいいんじゃないの?》 赤ランプの点滅が1秒点灯1秒消灯に変化した。 P13AXの全体が、細かく振動を続けている。 もちろん、その振動は非常に小さなもので、外から見てわかるようなものではない。つまり、さほどの危険はないと判断できるわけだ。 ボディー内部の143箇所が過熱状態にあるようだが、全体のパーツ数からすれば、これはほとんど無視できると言えた。 《1923年9月1日午前11時58分44秒。相模灘東部、伊豆沖約30キロメートルの海底を震源とする激震が関東一円を襲った。関東大震災である。死者99,331人、行方不明43,476人、家屋全壊128,266戸、半壊126,233戸、焼失447,128戸に達した》 エラーメッセージには、やはり異常が認められるものの、驚嘆に値するのは、そこに示されるデータの正確さである。 この処理系統の堅牢さは無類のものであろう。 《報告によりますと、第2中隊は、現在西と東から敵軍に挟まれた状態にありまして、波状的な攻撃を受けているとのことであります。応援の要請に応えるべきではないかと思われますが》 《ばかもん! そんな弱気になってどうするんだ。お前は、国体で3位になった男じゃないか。しっかりしろ。敵より先に自分に負けてどうするんだ!》 《こわいよ……。ぼく、こわいよ、ママ。だって、畑中君のおうち、すごくおっきい犬がいるんだもの》 邪魔に感じられるほど、P13AXのスクリーンには、意味不明のエラーメッセージが表示され続けている。 もっとも、P13AXには感情などないわけだから、それを邪魔と感じることもない。人間では任務遂行が不可能な状態であったとしても、P13AXには、単なる通信系統の乱れに過ぎないわけだ。そこがマシンの素晴らしいところである。 《蛍の光、窓の雪、文読む月日重ねつつ》 《if (!$USER) { Header("GTMM/1.0 401 Authorized Request"); Header("authenticate: basic realm=\"authentication example\""); print("ユーザ認証はキャンセルされました。"); exit; } else { $d = new myDbConnect; if ($d->con == false) { Header("GTMM/1.0 401 Unauthorized"); Header("authenticate: basic realm=\"authentication example\""); print("パスワードが違います。"); exit; } }》 《お父様、お母様、先立つ不幸をお許し下さい》 警告ランプの点滅が、また少し早くなった。 0.5秒点灯1秒消灯──。 サーキットの一部が焼き付きの状態を起こしているようでもある。むろん、すべてに補償回路が用意されているし、その切り替えは完全自動なのである。 そのとき、P13AXのセンサーが異質な音を捉えた。 「まもなく、銀座、銀座です。日比谷線中目黒行、丸ノ内線池袋行、新宿行はお乗り換えです」 P13AXは、すぐさま捉えた音の解析を開始する。 《慶長6年、大津代官末吉利方の建議により、伏見に創設された銀及び銀貨の鋳造・取り締りを司った役所を銀座と称する》 《なーんだ、そんなことか。楽勝じゃん》 《待避完了まで33秒です。ただちに、安全な場所へ避難してください》 |
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