竹内は、ホームに置かれている屑物入れを一つ一つ点検してまわってい た。 ホームの天井からぶら下がっている時計に目をやった。 もう15分ほどしかない。15分もしたら、兼田勝彦を乗せた電車が到 着する。 急がなければならない。 まさか、とは思うが、犯人が爆発物でも駅に仕掛けていないとはかぎら ない。ホームのどこかで爆発を起こし、その騒ぎに乗じて金を奪う。 そんなことを考えていないとはかぎらない。 屑物入れ、空き缶入れ……ふと、ホーム中央の売店に目がいった。 売店は、この時刻、すでに営業を終えシャッターが下ろされていた。 ここに、なにか仕掛けられていたとしたら……。 竹内は、売店に近づき、脇のドアに手をかけた。 鍵がかかっている。 むろん、当然のことだ。ここの鍵は、どこに置かれているのだろう? 駅の事務室か? 駅長室か? 売店の戸に手をかけている竹内を、数人の乗客が眺めていた。 まずい……。 竹内は、いったんその場を離れた。 どうもやりにくい。人命のかかっている事件は、下手に動くことができ ない。 あと15分ほどで電車が到着するということは、犯人もすでにこのホー ムで待機しているかもしれないのだ。その可能性は、非常に高い。 しかし、当たり前のことだが、犯人が確定されるまでは職質だってでき ない。 くそ、あと15分しかない。 狩野は、どこへ行ったのだ? 竹内はホームを見渡した。 時間がないとなると、竹内がこのホームを離れるわけにはいかない。狩 野はどこだ? 水飲み場横の屑物入れに、竹内の目がとまった。 投入口から、新聞紙の包みのようなものが覗いている。 ゆっくりと近づき、その新聞の包みを抜き出した。 「う……」 竹内は、思わず顔をしかめた。 筒状に丸められた新聞を開くと、中から現れたのは、誰かの吐瀉物だっ た。 ぷうんと鼻を突く臭いに顔をしかめながら、竹内は新聞をもとの筒に戻 し、ついでに屑物入れの投入口から中を覗き込んでみた。不審なものは見 当たらなかった。 新聞の包みを屑物入れに戻すと、竹内は、またホームを見渡した。 狩野亜希子の姿が、売店の向こうに見えた。 ゆっくりと、竹内はそちらへ足を運んだ。亜希子が、それとない視線で、 竹内のほうを見た。 |
![]() | 狩野亜希子 |