やけに暑い……。 と、英和は襟元をゆるめながら思った。 蒸している。首筋も、掌も、背中も、胸も、どこもかしこも汗ばんでい る。 ぼんやりと車内を見渡した。 よくみんな我慢していられるものだ。冷房が効かないのだろうか? い や……まだ、冷房を入れる季節じゃなかったっけ? 今は、何月だ? 腕時計をした左手がむずがゆかった。ベルトの下の皮膚が、ヌルヌルし て気持ちが悪い。ベルトをゆるめて時計の位置をずらし、そのあたりの皮 膚を指先で引っ掻いた。時計にしめつけられていた跡がくぼんで皮膚に残 り、そこだけピンク色にくっきりと形がついている。 よく見ると、ピンクに変色した皮膚の表面に、細かい皺が寄っていた。 指の腹で、その皺を伸ばすように押してみる。 「…………」 奇妙な感覚がした。皮膚がズレたように思えたのだ。 目を凝らして見ると、指で押さえたところだけ、ピンクの皮膚が引っぱ られたままの形で寄っている。まるで、皮膚の表層だけ、ラップフィルム でも張りつけたような感じだった。 なんだ、これ? 皮膚の皺を爪で挟んでつまんでみた。 英和はギョッとした。 爪に挟んだ皮膚が、薄皮一枚、木の葉の形にペロリと剥がれたのである。 剥離した皮膚の下に、真皮が赤く光っていた。 「…………」 英和は、思わず自分の周囲に視線を泳がせた。 彼を見ているものは誰もいない。 車内アナウンスがなにか言っていたが、英和にはその言葉の意味が聞き 取れなかった。 自分の手首に再び目を返した。 どうして……? 動悸が激しく打っている。内股と脇腹と脇の下にできた肉腫が、その動 悸にあわせてモグモグと動いていた。 なんだよ、これ? |