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再び口を閉ざしてしまった加奈子を、矢萩はゆっくりと眺めた。
小柄だが、身体つきは悪くなかった。というよりも、むしろ、これなら
上等の部類に入る。丸みを帯びた胸も気に入ったが、なによりも尻の肉づ
きがよさそうだった。絞ったウエストから、ぐいっと腰がひろがっている。
この位置からではフレアスカートの下の足が見えにくいが、それはおいお
い鑑賞させてもらうことにしよう。
問題は、どうやってこの女をその気にさせるかだ、と矢萩は思った。
無理矢理、というのも悪くはないが、できるなら女に自分から足を開か
せたい。
「1番線に参ります電車、渋谷行です」
アナウンスが、ホームに響いた。
まずは、とにかく、オレと加奈子が同じ被害者だということをわからせ
てやることだ。
今のところ、加奈子は亭主に腹を立てている。そして、瑞枝に腹を立て
ている。さらに、まずいことに、オレにも腹を立てているのだ。加奈子に
とってみれば、女房を寝取られたオレも、瑞枝側にしか見えていないとい
うことだ。
これを、なんとかしなきゃならない。
「教室で会ったんだと思うね」
言うと、加奈子が矢萩を振り返った。
「なに?」
「他に考えられないからさ。旦那とウチの女房が会ったのは、踊りの教室
だよ」
「なに言ってんの? あんた」
突っかかるような口調で、加奈子が言う。
「浅草と北千住、そんなに離れてるとも言えないが、近くもない。出会う
チャンスなんて、他にあるわけないからな」
「バカ言わないでよ。ウチの人、教室なんか通ってないわよ」
「旦那が通ってなくても、あんたが通ってるだろう?」
ピクリと、加奈子の肩が動いたのを、矢萩は見逃さなかった。
「迎えに来てもらったこととか、あるんじゃないか?」
「迎え?」
「ああ、教室が終わってさ、あんた旦那に迎えに来てもらって、クルマで
帰るとか、あったんじゃないか?」
加奈子が、向かいのホームへ目をやった。
「なかったか? そういうこと」
「あったけど……」
ほんの少し、加奈子の口調が弱くなった。
「な。やっぱりそうだ。そのときにさ、旦那はウチのヤツに目をつけたっ
てことだよ」
キッ、と加奈子がにらみつけてきて、矢萩はまずかったかなと手を握り
しめた。
「逆でしょ。あなたの奥さんが、ウチの人に目をつけたのよ!」
ふん、と矢萩は線路のほうへ目をやった。
「似たようなもんだ」
ひっぱたいてやろうか、と矢萩は思った。
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