![]() | 24:00 稲荷町駅 |
奇妙な男がホームに立っているのに、祐子は気づいた。
着ているジャケットが赤と緑の大柄なチェックで、その悪趣味な服装も奇妙だったが、もっと奇妙なのはその男のおびえたような表情だった。
切迫したような男の表情に、祐子は目がはなせなくなっていた。 変質者……?
そんな感じがして、祐子は思わず英介を抱き寄せた。英介は、気持ちよさそうな寝顔で、その頭を祐子の脇に押しつけていた。
ぞっとするような眼だった。
そう、あの人の眼だ。
人間の眼ではない。 お願いだから、と祐子は英介の肩を抱いた手に力を入れながら思った。お願いだから、あなたはああいう眼の男にはならないでね。ああいう眼で人を見るようなおとなにはならないでね。
だから、だからこそ、家を出る。
ジャケットの男が正面のシートに腰を下ろして、祐子は思わずそちらを見た。男は、相変わらずおびえたような表情で車内を見回していた。 「まもなく上野、上野でございます。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。お忘れ物ないよう、ご注意を願います。なお、電車とホームの間、広くあいております。足下にお気をつけ下さい。上野でございます」
そのアナウンスが、祐子には救いの声に聞こえた。
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![]() | 奇妙な男 | ![]() | 山脇英介 |