ドアの向こうから、滑り込むようにして大きなトカゲが電車に乗り込んできた。
へんなトカゲだなあ、と英介はつぶやいた。
お洋服を着ているトカゲなんて、見たことない。
金竜公園でつかまえたトカゲは、紫色と緑色のピカピカした皮をしてたけど、お洋服なんて着ていなかったし、もちろんあんなに大きくもなかった。緑と赤のお洋服を着たトカゲなんて、見たことないよ。へんなの。
トカゲは、後ろ脚で立ち上がって、電車の中を見回していた。
お母さんを眺め、それから英介を眺め、電車に乗っている一人一人を観察するみたいにして眺めている。
ケエッ!
と、変な声を出して鳴いた。
トカゲって、鳴くんだっけ?
よくわからなかった。今度、大島先生にきいてみよう。
あのトカゲも、シッポだけでも動くのかな。金竜公園のトカゲは、シッポが切れて逃げ出した。切れたシッポが、クルクル動いているのが面白かった。
ぼくにもシッポがあったら面白いな。たかしくんのシッポと、ぼくのシッポと、勝負させるんだ。
土の上に丸い土俵を描いて、英介はシッポをその中へ放り込んだ。
たかしくんも、自分のシッポを放り込む。
「ひがあし~ぃ、英介シッポのやまぁ。にいし~ぃ、たかしシッポのかわぁ」
お洋服を着たトカゲが、両手を上げて、シッポたちに合図をする。シッポがにらみ合いをして、クルクルとのたうち回りながら飛び上がった。空中で、英介のシッポがたかしくんのシッポをピシャッと叩いた。たかしくんのシッポは、ケケェッ! と鳴いて土俵の外に落っこちた。
「英介シッポのやまの勝ち!」
お洋服を着たトカゲが、パチパチと手を叩いた。
「つまんないよ」
たかしくんが言って、英介は、ほんのちょっと悪かったかな、と思った。
英介は、お洋服を着たトカゲが震えているのに気がついた。
風邪をひいたんだろうか、と英介は思った。だったら、お薬を飲んだほうがいい。お薬を飲んで、じっと寝てなきゃいけないんだよ。学校に行かなくてもいいけど、遊びに行っちゃいけないんだ。じっと寝てないと、病院に連れて行かれて注射されちゃうから。
見ていると、お洋服のトカゲは、前に座っている女の人のところに行って、女の人の膝に腰を下ろした。
「なによ!」
女の人が怒って立ち上がった。
女の人って、トカゲとかカエルとか、嫌いなんだよね。まちこちゃんなんか、カエルを見せたら泣いちゃったんだもん。どうして泣くんだろ。カエルなんて咬まないのに。目玉がクリクリッとしてて、とってもかわいいし、きれいなのに。
女の人と並んで座っていた男の人も、立ち上がってお洋服のトカゲをにらみつけた。パチン、と男の人がトカゲをひっぱたいて、英介はちょっとビックリした。
でも、トカゲはなんにも感じなかったように、黙っていた。黙ったまま、震えている。
あれ?
と、英介は顔を上げて、近づいてきた女の人を見た。
女の人は、英介のほうに手を伸ばし、頭を撫ではじめた。
髪の毛がぐしゃぐしゃになって、あんまりうれしくないなあ、と英介は思った。
そう思ったけど、わるいから、女の人にニッコリ笑ってみせた。
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