![]() | 24:00 稲荷町駅
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ピーッ! とホーム全体に鳴り響いた音に、トミーは思わず昇天しそうになった。 懲罰装置が発する音鞭を増幅したような波形だったからだ。 そのあまりの恐怖に、2発続けて放屁した。しかし、今のトミーには、自分の放屁すら自覚できなかった。
続いて、再び、ピンポンピンポン、と奇妙な音が響きわたる。 あ――。 乗るつもりじゃなかった……と、振り返ったときはすでに遅く、彼の後ろでスリットは完全に閉じてしまっていた。ぽっぽっぽっぽ、と放屁の連発。絶望的な状況に、トミーは小さく「別れの歌」を口ずさんだ。 「さよなら~。みなさま~。これでおわりねえ~」
そして、身体中の粒子という粒子を核反応させるがごとき振動とともに、トミーを載せた〈地下鉄〉全体が移動を開始した。
どうして、こいつらは平気な顔をしていられるのだろう……。
もしかして……。
トミーは、慌てて目の前の休息機へ移動し、ホモサピエンスたちを真似てそこへ腰を下ろした。 こいつら、ばけものだ……。 トミーは、恐怖と緊張の中でそう思った。 「まもなく上野、上野でございます。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。お忘れ物ないよう、ご注意を願います。なお、電車とホームの間、広くあいております。足下にお気をつけ下さい。上野でございます」 〈箱〉の中に拡声器の声が響いた。その声も、常軌を逸している。とにかく、この振動や音を上回る音圧を加えてくるのだから。 「ごめんなさい。もうしません。ゆるされてください」 トミーは、願いをこめて、そう言った。
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![]() | 小型のホモサピエンスを 抱えている一体 |
![]() | 青い矩形の容器を 抱えている一体 |
![]() | 妙な波長を 放出している一体 |