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 24:03 青山一丁目駅-赤坂見附
 駒形千佳子
(こまがた ちかこ)


     男と女って、なんなんだろうな……と、千佳子は思った。

 男と女が出会って、親しくなって、恋をして、結婚して……それって、どういうことなんだろう。出会って親しくなっても、恋には至らない男女もある。恋に至る男と女には、なにがあるんだろう。

 ウマが合う――そんなことじゃないはずだ。ウマが合うっていうのは、友達の関係だろう。恋人は、友達以上の関係? それとも、全然べつの種類の関係?

 友達以上、恋人未満って、何かのコマーシャルだっけ?
 ほんとにそんなのあるのかな。
 いや……もしかしたら逆に、自分たちは恋人だって思ってる二人のほとんどが、友達以上、恋人未満だったりして。

 恋って、確認できるものなんだろうか?
 セックス?
 嘘よ。恋も愛も、これっぽっちもないセックスなんていくらだってあるじゃない。

 じゃあ、なんだろう?

「まもなく、赤坂見附です。丸の内線中野坂上行、池袋行、有楽町線池袋行は乗り換えです。中野坂上行は0時12分、新宿行は0時30分、池袋行0時14分、有楽町線池袋行は0時16分です」

 乗り換えのアナウンスの「0時」「0時」と繰り返す言葉が耳についた。
 午前様、か。

 たとえば、今、あたしの隣に三宅さんが座っている。
 三宅さんの腕に、あたしは自分の腕を押しつけている。
 なんとなく、フワフワしたいい気持ちになってる。
 あたしたちの正面には、まだあの男がいるけれど、さっきほどは気にならなくなった。男の存在よりも、あたしにとっては三宅さんが横に座っていることのほうが重要に思ってる。

 これって、なに?

 さっき、三宅さんは、また会ってほしいとあたしに言った。
 素直に、はい、と返事すればいいものを、あたしはまたひねくれたことを訊き返してしまった。
 でも、会ってほしいと言ったこの人の言葉が、とても嬉しかった。
 なんだか、とってもポカポカした気分になった。

 どうして?

 恋の予感?

 なんだかおかしくなって、千佳子はクスクスと笑い出したくなった。それを必死に我慢した。

 憧れてんのよね。〈恋〉に。
 幼いなー、千佳子ちゃん。

 待ってよ。老いらくの恋って言葉だってあるじゃないの。
 恋に憧れるって、幼いこと?
 恋するのは、幼いことじゃない。恋の仕方に幼いのとそうじゃないのがあるだけだ。

 成熟した恋、ってどんなんだ?
 なんか、気持ち悪いな。
 そういうの、あたしには似合いそうにない。
 つまり……あたしは、幼いってことか。

 今度は、ケラケラ笑ってやりたくなった。
 ここが自分の部屋だったらいいのに。そうしたら、思う存分、涙流しながら笑い転げられるのに。

 あー、あたしってバカ。


 
    三宅 聡 あの男

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