![]() | 24:06 赤坂見附駅 |
「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」 鏡が声を上げてホームを走り出した。 「おう」 と、奈良岡はその鏡に続く。 美香が奈良岡に並ぶようにして横を走っていた。 「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まってんの。まだ、時間、あるわよ」 美香が前の鏡に声を上げた。 なるほど、と奈良岡は口の中でもう一度つぶやいた。 鈴木みどりは、今度は湯川潤をたらし込んだってわけか。いい気なもんだな。 そういうことなら、オレにも考えはある。 ピーッ、と車掌の笛がホームに響いた。 「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」 続いて、アナウンスが発車を告げる。 まあ、もちろん……と、奈良岡は先頭車両のドアへ急ぎながら思った。 もちろん、鈴木みどりに未練などない。ややマゾが入ってて、楽しめる女だったことは確かだが、だからといって最後まで飼育してやろうという気にはなれない。 しかし、湯川みたいな坊やと、そういうことになったとなれば、別の楽しみ方もできるってことだよ。 ふん、と奈良岡は小さく鼻を鳴らした。 鏡が、電車のドアを押さえながら急かせた。 「はい、乗った乗った」 奈良岡は、最初に電車に乗り込んだ。 すぐ後ろから美香が乗り、彼女は、奈良岡の脇に寄り添うようにして立った。 この美香を遊んでやるのも面白いが、こうなった以上、みどりを放っておくという手はないな。 奈良岡は、乗り込んできた湯川とみどりを見比べながら思った。 「なんだ? みなさん、座らないの?」と、鏡がおどける。「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」 言われて湯川は頭をかいた。 「いや……その、主役って」 ばかだね、この男も。 吹き出したくなる気持ちを抑えながら、奈良岡はシートに腰を下ろした湯川とみどりを眺めた。 これは、面白いことになってきた。 よし、みどりの写真にうまい利用法ができたというものだ。 せいぜい、楽しませてもらうことにしようか。 |
![]() | 鏡 | ![]() | 美香 | ![]() | 鈴木 みどり |
![]() | 湯川潤 |