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 24:07 赤坂見附駅
 大野功一
 (おおの こういち)


     やっぱり、今日のデートでなにかあったんじゃなかろうか。

 大野は、チラリと三宅に目をやりながら思った。
 なにか、計算外のことが起こったんじゃないだろうか。三宅のオフクロさんが、2人を困らせるようなことを言い出したとか、そんなことじゃないのだろうか。

 降りて行った酔っぱらいたちの話題が途切れてしまうと、三宅も千佳子もまた黙り込んでしまった。その沈黙には、大野も割り込めないようなものが漂っている。

 ホームでチャイムが鳴り響き、続いてドアが閉まった。
 ガコン、と電車が動き始める。
 ふう、と大野は息を吐き出した。

「なあ」
 と、大野は肘で三宅の腕を押した。
 三宅が、こちらへ顔を向けた。

「なにか、あったの?」
 思い切って訊いてみた。2人のこの気まずい雰囲気の原因が今日のデートにあるのだとしたら、その責任の一端は自分にもある。
「……なにかって?」
 三宅が、ギクリとしたように訊き返した。

「なんだか、お前らの様子が変だからさ」
「…………」

 やっぱりそうなのだ、と大野は確信した。
 三宅は、大野から視線をそらせるようにして正面を向いている。覗き込むと、こちらを見つめている千佳子と目があった。それも一瞬で、やはり千佳子も大野から目をそらせた。

「なにか、あったんだろ? どうしたんだよ」
「なにかって……べつに」
 三宅が言った。電車の走行音が、その三宅の言葉を消した。
「どう見たって、べつにって顔じゃないぜ。なんだよ、話してみなよ」

「なにが言いたいの? 大野さん」
 千佳子が向こうから訊いてきた。
 大野は、笑顔を作りながら首をすくめてみせた。
「気になっちゃうからさ。なにか、予定外のことでも起こったんじゃないかって。そんな雰囲気だもんな、お前ら」

「予定外?」
 千佳子が、いくぶん声を高くした。
「違うのか?」
「予定外って、なんなの? どういう予定だったって言うの?」
「…………」

 千佳子の言葉に、大野はいささか戸惑った。
 なんだか、怒っているような口調だった。
 さっきは、三宅が突っかかって、今度は千佳子? なんなんだよ、これ?

「大野さんは、どんなことを予定してたの?」
 千佳子が重ねて訊いた。
「いや……べつにオレの予定じゃないだろ。三宅のオフクロさんを騙そうっていうことだったから」
「そうよ。だから、三宅さんと1日だけの恋人になってお母さんと食事してきたの。そのお膳立てをしてくれたのは大野さんだったのよね。どんなことを考えて、あたしを三宅さんに紹介したの?」

「…………」

 大野は、千佳子を見つめた。その目を、千佳子と三宅の間で往復させた。
 千佳子は睨むように大野を見つめ、三宅のほうは、ずっと前方へ目をやっている。

 よっぽどのことが起こったらしいと、大野は理解した。もしかすると、それは考えていたことよりも、ずっとまずい事態なのかもしれない。それが起こったのは、千佳子を三宅に紹介した大野の責任だと、千佳子は言っている。
 いったい……なにがあったのだ?

「いや、僕はべつに……」
 と、三宅が口を開いた。続けて何か言うのかと思ったが、彼は、そのまままた口を閉ざした。

「なんなんだよ」大野は、不安な気持ちで2人を見比べた。「いったい、どうしたんだ? 2人とも」


     三宅  千佳子 

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