 | 24:09 三越前-日本橋駅 |
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「まあ、冗談はともかく……そいつ、どういう女なんだ？」 涌島が言った。 なにか面白くなかった。 もちろん、鈴木みどりと別れたってどうということはない。ホッとしていたのも事実だ。しかし、自分が、日替わり弁当に扱われていたんだとすると、それは問題が別だ。 「普通じゃないよなあ。聞いてると」 涌島がまた言った。 こいつは、とにかくどこかでトラブルが起こってほしいのだ。ただそれだけしか考えていない。 「まもなく日本橋、日本橋。東西線はお乗り換えです。今度の東西線西船橋行の最終電車は１２分の発車です。お出口は左側に変わります。お手回り品、お忘れ物ないよう、ご注意を願います。日本橋でございます」 車内アナウンスが聞こえて、寛敏はチラリと窓のほうへ目をやった。 しかし、信じられない。 あのみどりが……。 「宮地」と、寛敏は顔をつきだした。「さっき言ったこと、ほんとなのか？」 「うん。だって、オレも櫛部があいつとつき合ってるって聞いて、ショックだったんだもの」 「ショック……」寛敏は小さくため息をついた。「だよなあ。そりゃあ」 確かにショックだよ。どういう神経してるんだ、あの女。 「お前とみどりのつき合いって、友達っていうんじゃないんだろう？」 と大樹が宮地に向かって言う。 「うん……そう思ってた」 「思ってたって――」 そういう問題じゃ、と寛敏は言いかけて思い直した。 「そうか。まあ、そうだな。オレも正直言って、友達づきあいじゃないと思ってたしな」 でも、みどりのほうはどうだったんだろう……と、寛敏は思った。 あいつは、オレをどんなふうに思っていたんだ？ 友達じゃない。恋人でもないわけだ。やっぱり日替わり弁当？ 信じられない。 「宮地は、その女のこと、好きなんだろ？」 涌島が、嫌味たらしく訊く。宮地はただその涌島を見返した。 「櫛部は、好きなんだよな、もちろん」 続けて涌島は大樹にもそう訊いた。 「門田、お前はもう未練とかないわけか？」 寛敏は涌島に顎を上げた。 「……なにが言いたいんだよ」 電車が停まる気配を見せて、寛敏は背後のドアのほうへ数歩移動した。全員がそれについてきた。 「一度さ、みんなでそいつと会ってみれば？」 涌島が言って、寛敏は、なに？ と彼を見返した。 「みんなで？」 大樹が訊いた。 「ああ。どういうつもりなのか、本人に訊くのが一番じゃないの？ だれとつき合うつもりなのか」 「そんな……」 宮地が、つまったような声で言った。 電車がホームに滑り込み、やがて停車した。 開いたドアからホームへ降りる。 階段に向かって歩きながら、寛敏は、ふん、とうなずいた。 「それもいいかもしれないな」 言うと、隣の大樹が訊き返してきた。 「なんだよ」 「いや、３人でみどりに会うっていうの」 「本気かよ」 「オレも、あいつの本心が訊いてみたいしさ」 直接言ってやりたいと、寛敏は思った。 ３人でみどりに会って「オレたちは日替わり弁当だったのかよ」と訊いてやりたいと、寛敏は本気で思った。 |
 | 涌島 |  | 鈴木 みどり |
 | 宮地 |  | 大樹 |