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 24:09 三越前-日本橋駅
 櫛部大樹
(くしべ ひろき)


    「まあ、冗談はともかく」と、涌島が続けた。「そいつ、どういう女なんだ?」
「…………」
 大樹は答えられなかった。
「普通じゃないよなあ。聞いてると」
 たたみかけるように涌島は言う。

 みどりが、宮地と……。
 毎週、木曜。
 毎週、ということは、宮地とみどりは、オレよりつき合いが長いってことなのだ。

 どう考えたらいいのかわからなかった。
「いつも一緒にいたいの」
 みどりの言葉が耳に残っている。
 そこにアナウンスが響いてきた。

「まもなく日本橋、日本橋。東西線はお乗り換えです。今度の東西線西船橋行の最終電車は12分の発車です。お出口は左側に変わります。お手回り品、お忘れ物ないよう、ご注意を願います。日本橋でございます」

 寛敏とみどり。宮地とみどり。
 そして……オレとみどり。

「宮地、さっき言ったこと、ほんとなのか?」
 寛敏が言った。
「うん。だって、オレも櫛部があいつとつき合ってるって聞いて、ショックだったんだもの」
「ショック……だよなあ。そりゃあ」

 大樹は宮地のほうへ顔を上げた。
「お前とみどりのつき合いって、友達っていうんじゃないんだろう?」
 宮地が、うん、とうなずいた。
「……そう思ってた」
「思ってたって――そうか」寛敏も、先ほどとは違った真面目な口調になっている。「まあ、そうだな。オレも正直言って、友達づきあいじゃないと思ってたしな」

 遊ばれたんだろうか?
 オレは、みどりに遊ばれたのか?

「宮地は、その女のこと、好きなんだろ?」
 涌島が訊いた。
 宮地は、答えずに涌島を見返した。
 同じことを、涌島は大樹にも向けてきた。
「櫛部は、好きなんだよな、もちろん」
「…………」
「門田」と、さらに涌島は続ける。「お前はもう未練とかないわけか?」
「……なにが言いたいんだよ」
 腹を立てたように、寛敏が言い返した。

 寛敏がドアのほうへ移動して、大樹もそれに続いた。

「一度さ、みんなでそいつと会ってみれば?」
 涌島が言って、櫛部は彼を振り返った。
「みんなで?」
 訊き返すと、涌島はうなずいた。
「ああ。どういうつもりなのか、本人に訊くのが一番じゃないの? だれとつき合うつもりなのか」
「そんな……」
 宮地が、戸惑ったように言ったとき、電車が停まり、ドアが開いた。

 ホームに下りて、無言で階段のほうへ歩く。

「それもいいかもしれないな」
 隣で、ポツリと寛敏が言った。
「なんだよ」
 訊くと、寛敏は小さく首を振った。
「いや、3人でみどりに会うっていうの」
「本気かよ」
「オレも、あいつの本心が訊いてみたいしさ」
「…………」

 3人で、みどりに会う……。
 どんなことになるのだろう、と大樹は思った。
 3人が目の前に顔を揃えたら、みどりはどんな顔をするのだろう――。


 
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