 | 24:09 三越前-日本橋駅 |
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「力は借りない。でも、スキャナーぐらい借りてやってもいいさ」 言うと、桐恵が吹き出した。 「なによ、それ」 自分でも変かなと思いながら、小夜は桐恵を見返した。 「じゃあ、買うの？」 桐恵と知美が顔を見合わせた。 この二人……できてんじゃないの？ と、小夜は、ふと思った。 なに見つめ合ったりしてんのよ。 「お金ないんだから、あるものを使うべきよ」 言ってやると、桐恵が小夜と知美を見比べるようにして口を開いた。それを遮るようにして、車内アナウンスがしゃべりはじめる。 「まもなく日本橋、日本橋。東西線はお乗り換えです。今度の東西線西船橋行の最終電車は１２分の発車です。お出口は左側に変わります。お手回り品、お忘れ物ないよう、ご注意を願います。日本橋でございます」 そりゃあ、あの蒲原信二には腹が立っている。あんなバカとは二度と顔を合わせたくない。 だけど、それとスキャナーをどうするかってことは次元の違う話だ。桐恵だって、さっき「あの人のことはあの人のこととして」って言ってたじゃないか。 そんなに私が分からず屋だと思ってるんだろうか、この二人は。 「借りられるかな……？」 桐恵が、知美に訊いた。 「頼んでみてもいいけど……」 知美は、小さく口をとがらせながら言う。 「けど？」 小夜は、知美に訊き返した。 きまり悪そうな表情で、知美がこちらを見つめる。 「小夜、いいの？ 彼のこと、怒ってるのに」 小夜は、ひょいと首をすくめた。 「知美が借りてくれるぶんには、あたしはかまわないよ」 よし、と言うように桐恵が知美の向こうでうなずいた。 「じゃあ、借りれるかどうか、知美、訊いてみて」 「わかった……」 知美は、小夜を伺うようにして、こくりとうなずいた。 ちょっと、きつく言いすぎたのかなあ……。 知美の表情を見ながら、小夜は思った。 まあ、ああいうバカでも、知美にとっては彼氏だからね――。 知美に、もう一度謝っておこうかと思ったとき、窓の外が明るくなった。 謝るタイミングを逸したまま、電車は日本橋駅に着いた。 「じゃ、また明日にでも打ち合わせしよう」 桐恵が勢いよく立ち上がりながら、小夜に言う。同時に、知美もシートから腰を上げた。 「オーケー、じゃあね」 小夜は、座ったまま二人に手をあげた。 「明日ね」と、知美が言う。 二人は、そのままドアのほうへ歩いて行った。 「おつかれー」 彼女たちの背中に言うと、二人はホームに下りてこちらを振り返った。 「バイバイ」 桐恵が言いながら手を振る。知美も胸のあたりに手をあげた。 小夜は、ニッコリと二人に笑ってみせた。 ふう。 二人の姿が見えなくなると、小夜は、なんとなく息を吐き出した。 腕の時計に目をやる。 １２時１０分になろうとしていた。 あーあ、こんな時間になっちゃった。 あんな、バカな男の自慢話を聞かされてこんな時間か……。 やれやれ、と小夜はまた首を振った。 |
 | 桐恵 |  | 知美 |