津波で失われたはずのノート。行方不明のまま永い時を経た少年の伝言。数千キロ先の故国を目指す男が遺した言葉。そこからは強いメッセージが発信されていた。騙されるということ自体が一つの悪なのだ。やられっ放しで判断力を失う前にやるべきことがある。僕たちは迷子のままではいられない――。心に沁みる再生の歌二編。
 
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#61 新潮社 総合メールマガジン「Mikazuki」2020/05/22
Yukky's COLUMN
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絶望のどん底でもどう生きるか
天童荒太さんの待望の最新小説
 営業担当役員の伊藤幸人です。

 改めてご説明するまでもないと思いますが、天童荒太さんは『家族狩り』『永遠の仔』『悼む人』など数々のベストセラーを産み出してきた現代を代表する人気作家です。児童虐待、家族の絆、人間の生死といった切実なテーマを基に、不条理としか言いようのない絶望のどん底に追い込まれた人はどう生きていくのかを劇的に描く作家として、天童さんの右に出る人はいないでしょう。寡作で知られ、「次はどんな作品を書くのか」に常に注目が集まります。

 そんな天童さんの待望の作品集『迷子のままで』がこの度刊行されました。同書には本のタイトルとなった『迷子のままで』と『いまから帰ります』の2編の意欲的な中編小説が収録されていますが、今日は『いまから帰ります』の方をご紹介したいと思います。

 作品の舞台は、東日本大震災の津波による原発事故が起こった福島で、事故後数年という設定。放射能汚染の危険に晒されながら、防護服を着ての過酷な除染作業に携わっている労働者たちの一人、26歳の青年が主人公(遙也)です。同僚にはベトナムからの外国人労働者も混じっています。それぞれ複雑な過去や事情を抱える除染作業員たちの日常や言動がリアルに描かれていきます。

 作品の一つの「キー」となるのが、主人公の遙也が津波が襲った地域に住んでいた叔父の消息を探しに行った際に瓦礫の中で見つけた、ある女子高校生の「生徒手帳」の存在です。遙也は「生徒手帳」に貼られた写真の可憐な女子高校生に思いを寄せ、もしもその子がいまも生きていて出会えることが出来たならば、その手帳を直接手渡したいと願っています。そして、休日に遙也たちが繁華街に出かけた時、生徒手帳の写真とそっくりの若い女性をたまたま街の本屋で見かけたところから、物語は思わぬ方向に展開していきます。

 これ以上はネタバレになるので、ここでやめますが、知られざる死者の思いが偶然にも明らかになり、読む者の心を強く打つことでしょう。

 もう1編の「迷子のままで」は、児童虐待死が絡む哀しい事件を扱った作品ですが、人は誰しも置き去りにされ、迷子になることでいかに心が傷つくか、ということがメインテーマの真摯な物語です。

 コロナ禍の影響で、このひと月半ほどは読者の皆様も不自由な自粛生活を送ってこられたことと思います。徐々に事態は改善の方向に向かってきたとはいえ、まだまだ制限の多い不安な日々はしばらく続くことでしょう。しかし、どんな絶望的な状況においても、人と人との心の触れあいはあり、その大切さを感じさせてくれる天童さんの小説からは、生きていく心の糧が得られるに違いありません。ぜひお読みいただきたいと思います。
『迷子のままで』
天童荒太/著
僕たちはやり直せるのか。
騙され苛まれて立ち尽す無気力の荒野に、陽はまた昇るのか。
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