今月の編集長便り、編集部便りをお送りいたします。本年も「新潮新書」をどうぞよろしくお願い申し上げます。
 
「新潮新書」メールマガジン[378号] 2019年1月11日発行
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新潮新書メールマガジンはリニューアルいたしました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
今月の編集長便り
マウンティングの話
 流行の言葉や新しい言葉はあまり使わないほうなので、当然「マジ卍」などと口にしたことはありません。しかしながら、なるほどこれは便利だ、と思ってつい使う言葉も時々出てきます。私にとっては「マウンティング」というのがそれでした。簡単に言えば、相手より自分を高い位置に置こうとする行為、ということになるのでしょうが、日本語で一言で言うのはわりと難しい気がします。
 これが便利だなと思うのは、そういう感じの言動を見る機会が結構あるからかもしれません。出版業界などというものは、半可通や調子に乗りたい人がわりと多いところです。また、その中でも、自分の所属している小さなムラやサークルのようなところでのポジションをとても重視する人がいます。
 そういう人は、機会を見つけては「俺のほうが知っている」「僕のほうが正しい」と示そうとする。「マウンティング」をするわけです。はたから見ているといささか滑稽で、「そのムラで偉いからといっても世間とは関係ないのにね」などと思いますが、余計な波風を立てたくないのでなるべく黙っています。
 ただ、自分自身、そういう言動をとってしまう面もあるのかもしれません。お笑い好きとか洋楽好きの若い人と話している時に、つい「俺は生で見たことがあるぞ」とか言ってしまいます。気をつけたいと思っています。

 1月新刊『ちょいバカ戦略―意識低い系マーケティングのすすめ―』(小口覺・著)は、「マウンティング」と密接な関係がある「上から目線」の危険性を説いた異色のビジネス書です。実は多くのヒット商品は「意識高い系」の上から目線ではなく、もっと下からの目線、「意識低い系」の視点を取り入れたものだ、ということが鮮やかに示されていきます。アップルも、ワークマンもみんな「ちょいバカ戦略」の賜物だ、というのはかなり新しい指摘だと思いました。

 他の新刊3点もご紹介します。

リベラルを潰せ―世界を覆う保守ネットワークの正体―』(金子夏樹・著)は、著者がリベラルを敵視しているわけではなく、「リベラルを潰せ」と動いている人たちについてのディープなレポート。アメリカやロシアではそういう運動が日本よりもはるかに盛り上がっており、その背景にいるのが世界家族会議という組織。この組織の力は少し前に話題になった日本会議の比ではありません。トランプ大統領とプーチン大統領をつなぐ線も見えてくる、驚きの内容です。

昆虫は美味い!』(内山昭一・著)は、第一人者による「昆虫食のすべて」。気持ち悪い……と思う方も多いことでしょう。実は私もそうでした。が、読み進めるうちに、ちょっと味わってみたいかも、という気になってくるから不思議です。あのムシがトロの味で、このムシはフグの白子のよう、と具体的に言われると、それならば……と興味がわいてきました。ただし、専門家の指導なしで食べたいとは思いませんが。

もっと言ってはいけない』(橘玲・著)は、一昨年刊行してベストセラーとなり、新書大賞も受賞した『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』の続編。前作刊行から2年ほどで、さらに世の中には「言ってはいけない」という圧力が増している感じがあります。どういう背景やデータがあろうとも、ある種のテーマについては気軽に口にできない。書くときにも細心の注意が必要。出来ることなら触れないほうが無難……。
 しかし、デリケートなテーマであっても、いやそういうテーマだからこそ書籍できちんと取り上げて論じることには意味があるはずです。
 今回も著者は人種、知能、格差といったテーマに踏み込んで、驚きの事実を次々と提示していきます。前作以上の衝撃と読みやすさを保証いたします。

 2019年も志は高く、しかし「上から目線」を排して本を作っていきます。
 今年もよろしくお願い申し上げます。
編集部便り
その190
老いるショック
 昨年還暦を迎えられたみうらじゅんさんは、ご自身の老化現象を「老いるショック」と表現されていますが、みうらさんより10歳若い自分もすでに「老いるショック」と無縁ではいられなくなっているようです。
 固有名詞が出てこない、人の名前を覚えられないなんてのは序の口。最近では、二つの固有名詞を合体させて存在しない固有名詞を捏造するという作業を脳が勝手に始めてしまうのです。「松本零士」というべきところで「松本セイジ」(←松本清張との合作)と言ってみたり、「きねや」というお菓子屋さんを脳が捏造していたり(いずれも有名なお菓子屋さんである北海道の「きのとや」と滋賀県の「たねや」の合作っぽい)。
 それだけでも問題ですが、実は新年早々、妻の実家から帰京する際、羽田空港から乗った京急線の中に財布やらコートやらを詰め込んだバッグを置き忘れるという大失態をやらかしてしまいました。幸いにしてバッグは見つかりましたが、置いたのが座席だったのか棚だったのかもあやふやなのです。みうらさんの言葉をもうひとつお借りすれば、「じぶんなくし」が勝手に進んでしまうことも「老いるショック」の症状のようです。
 新年早々、景気の悪い話で申し訳ありませんが、新潮社には日本一優秀な校閲者集団がおりますので、本のクオリティコントロールは大丈夫です。
新刊情報
1月刊・4点は1月17日発売!
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