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電車がホームに入ってきていた。ラッキーだった。
「走れえっ!」
飛沢君と秋葉君がホームを前のほうへ走っていく。明久は必死で二人を
追いかけた。
「待てよ! なんでそんなほうまで行っちゃうんだよ、このバカ野郎」
秋葉君が、飛沢君を追いながら叫んでいた。
明久は、後ろの連中がちゃんとついてきているのか少し心配になって、
走りながら振り返った。門田君がスキップするように飛び跳ねながら後ろ
を走っていた。
一番前まで飛沢君が走っていったとき、ちょうど電車のドアが開いた。
飛沢君が乗り込むのと入れ違うようにして、中年の夫婦がそのドアから
降りてきた。明久は、秋葉君に続いて電車に乗り込んだ。門田君や、櫛部
君たちも次々に乗り込んでくる。明久は、座席に着いた飛沢君と秋葉君の
前に、吊革につかまって立った。
「オズ、飛沢の番」
さっそく、秋葉君はゲームを再開して、飛沢君の答えを促した。
やってみると、これが、結構面白いゲームだった。秋葉君は、こういう
ゲームを考えるのがうまい。才能のある人は、やっぱり違う。
「オズって、オズの魔法使いのオズ?」
明久は、前の座席の二人に笑いかけながら言った。
「早く!」
と、秋葉君が飛沢君をあおった。
ボームの書いた『オズの魔法使い』っていいよなあ……と明久は思った。
ああいう話を僕も書きたい。『オズの虹の国』『オズのオズマ姫』『ドロ
シーとオズの魔法使い』『オズの国を訪ねて』『オズのつぎはぎ娘』――
あと、ええと、なんだっけ?
「エメラルド・シティ」
飛沢君が言って、明久は、あ、そうか、と思い出した。
『オズのエメラルドの都』だ。
「なんだ、きったねえ」と、笑いながら秋葉君が言った。
「なんでさ」不機嫌そうな顔で飛沢君が訊き返す。
「だって、同じじゃん。オズとエメラルド・シティじゃ」
「オズの首都がエメラルド・シティ。日本と東京は別モンだろ。同じじゃ
ねえよ」
そうか、と明久はうなずいた。
だとしたら、オズの周辺の国とか、そういうのを並べてもいいわけだ。
それならいくらでも言える。赤い服を着た人たちが住んでいるカドリング
国。青い服のマンチキン国。紫の服はギリキン国で、ウィンキー国の人た
ちは黄色の服だ。
「なあ、エメラルド・シティって、オズの魔法使いに出てくるエメラルド
・シティか?」
明久がそう言ったとき、電車が走りはじめた。
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