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「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」
アナウンスの声に、前を歩いていた連中が走り出した。
「ほら、ジュンちゃん」
みどりが湯川の手を取って走り出す。引っ張られるようにして、湯川も
彼女に足をあわせた。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
また、アナウンスが言っている。
どうして、こういうことになっちゃったんだろう……。
みどりと手をつないで走りながら、湯川はぼんやりと考えていた。
「あたしたち、再来月に結婚するの」
そのみどりの言葉に、一番びっくりしたのは湯川自身だっただろう。わ
あ……と、歓声が上がり、わけがわからないまま乾杯させられ、みんなの
前でみどりとキスを披露することになり……鏡の奴からは、バチバチと背
中をひっぱたかれた。
そんな約束、オレ、ほんとにしたんだろうか?
アナウンスが、ドアを閉めるから早く乗れと言っている。
一番前の車両まで来ると、鏡が「はい、乗った乗った」とみんなを電車
に押し込んでいた。
「どぉも!」
みどりが、そんな鏡に愛嬌を振りまきながら乗り込んだ。湯川は、その
みどりに手を引かれて電車に足を踏み入れる。
全員の視線が、湯川とみどりに注がれていた。
「なんだ? みなさん、座らないの?」
最後に乗り込んできた鏡が、場を仕切って言う。
「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ
」
最後のところは、湯川に言った。
「いや、その、主役って……」
言うと、鏡は、ニタニタと笑いを返してきた。
みどりに引きずられるようにして、湯川はみんなの視線を浴びながら座
席に着いた。みどりが湯川の手を自分のスカートの上へ置いた。
「…………」
顔を上げると、嘉野内真紀と目があった。
真紀の顔は笑っていたが、それが作り笑いだということはすぐに見て取
れた。彼女の眼は笑っていなかった。
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