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お、来てるじゃないか。
国彦はドアを開けている銀色の電車を見て、足を早めた。新橋なら前が
いいのだ。
後ろを振り返り、声を上げる。
「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」
おう、と言うようにすぐ後ろの奈良岡が走りはじめた。
同時に構内アナウンスが告げた。
「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」
後ろの連中がついてきていることを確認しながら、国彦は走る。
美香が後ろで高い声を上げる。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まっ
てんの。まだ、時間、あるわよ」
それでも、国彦は早足のまま先頭車両へ向かった。
ピーッ、と後ろのほうで車掌が笛を吹いた。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
先頭車両の後ろのドアの前で、若い女性が中を覗きながら立っていた。
電車の中を覗くと、酔っぱらいの男を両側から抱きかかえるようにして、
男たちがホームへ降りようとしていた。
だから国彦は真ん中のドアへ走る。
中央ドアの前で、後ろの連中を迎える。
「はい、乗った乗った」
ドアボーイになったような格好でドアを片手で押さえながら、国彦は全
員を誘導する。
「浅草行最終電車です。お乗りくださあい」
アナウンスが、間延びしたような声で言った。
奈良岡が乗り、続くようにして美香が乗り込む。手賀がそこに続き、真
紀がいささかふてくされたような顔でドアをくぐった。肝心のみどりと湯
川は、一番最後から手をつないで走ってきた。
「どぉも!」
みどりはドアボーイをやっている国彦に笑いかけながら、湯川の手を引
っ張るようにして電車に乗り込んだ。
「あー、浅草行、ドア閉めますからご注意下さい」
後ろの車両のほうで乗り遅れている奴がいるのだろう。駅のアナウンス
が、叫び続けている。
入口付近にかたまって立っている連中に、国彦は浮かれたように言った。
「なんだ? みなさん、座らないの? こんなに座席が空いてるのに」
手をつないだままの湯川とみどりに笑いかける。
「ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
「いや……その、主役って――」
湯川が困ったように国彦を見返す。
いやあ、なんとしてもめでたい。と、国彦は湯川に笑いかけた。
こんなにめでたいことがあるだろうか。結婚だって? いいじゃないか。
お祝いしますよ。心からお二人の門出を祝おうじゃありませんか。
そうかそうか。結婚するのか。よかったよかった。
目を移すと、みどりが照れたように、チロッと舌を出した。
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