|
すでに、ホームには電車が止まっていた。
徹矢が手近なドアに進もうと思ったとき、前で鏡が声を上げて走り出し
た。
「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」
その鏡につられたようにして、奈良岡と美香が駆け出す。
徹矢は、ふう、と息を吐き出して3人に続いて足を早めた。
「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」
アナウンスが言い、
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まっ
てんの。まだ、時間、あるわよ」
と、美香が言った。
チラリと徹矢は自分の後ろを振り返った。真紀の後ろを、湯川とみどり
が手をつないで走っている。
あの野郎……。
徹矢は、頭をむりやり前に向けながら思った。
湯川の野郎、いつの間にみどりとそういうことになっていたんだ。許せ
ない。
絶対に許せない。
人の女をかすめ取るような真似をしやがって。
みどりもみどりだ。なんで、あんな湯川みたいな奴に――。
許せない。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
アナウンスが言う。
心なしか、前の連中の足が速くなった。
先頭車両につくと、鏡がドアを押さえながらみんなを乗り込ませはじめ
た。
「はい、乗った乗った」
美香に続いて徹矢は電車に乗り込んだ。
「浅草行最終電車です。お乗りくださあい」
駅のアナウンスが、ホームに残った客を急がせている。
徹矢は奈良岡や真紀と並んで通路に立ち、ドアを振り返った。
湯川とみどりが手をつないで乗り込んできた。
じっと、そのみどりの顔を見つめた。
「なんだ? みなさん、座らないの? こんなに座席が空いてるのに」
鏡が、おどけたような声で言う。
「ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
鏡の言葉に、湯川が頭へ手をやった。
「いや、その、主役って……」
言いながら、湯川はみどりと並んでシートに腰を埋めた。
これ見よがしに湯川はみどりのスカートの上に自分の手を載せている。
どうしてやるべきか、と徹矢は思った。
このままですませるつもりはない。
みどりがオレの女だということを、はっきりとわからせてやる。湯川に
も、みどりにも。
結婚? 絶対に許さない――。
|