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「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」
鏡が声を上げてホームを走り出した。
「おう」
と、奈良岡はその鏡に続く。
美香が奈良岡に並ぶようにして横を走っていた。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まっ
てんの。まだ、時間、あるわよ」
美香が前の鏡に声を上げた。
なるほど、と奈良岡は口の中でもう一度つぶやいた。
鈴木みどりは、今度は湯川潤をたらし込んだってわけか。いい気なもん
だな。
そういうことなら、オレにも考えはある。
ピーッ、と車掌の笛がホームに響いた。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
続いて、アナウンスが発車を告げる。
まあ、もちろん……と、奈良岡は先頭車両のドアへ急ぎながら思った。
もちろん、鈴木みどりに未練などない。ややマゾが入ってて、楽しめる
女だったことは確かだが、だからといって最後まで飼育してやろうという
気にはなれない。
しかし、湯川みたいな坊やと、そういうことになったとなれば、別の楽
しみ方もできるってことだよ。
ふん、と奈良岡は小さく鼻を鳴らした。
鏡が、電車のドアを押さえながら急かせた。
「はい、乗った乗った」
奈良岡は、最初に電車に乗り込んだ。
すぐ後ろから美香が乗り、彼女は、奈良岡の脇に寄り添うようにして立
った。
この美香を遊んでやるのも面白いが、こうなった以上、みどりを放って
おくという手はないな。
奈良岡は、乗り込んできた湯川とみどりを見比べながら思った。
「なんだ? みなさん、座らないの?」と、鏡がおどける。「こんなに座
席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
言われて湯川は頭をかいた。
「いや……その、主役って」
ばかだね、この男も。
吹き出したくなる気持ちを抑えながら、奈良岡はシートに腰を下ろした
湯川とみどりを眺めた。
これは、面白いことになってきた。
よし、みどりの写真にうまい利用法ができたというものだ。
せいぜい、楽しませてもらうことにしようか。
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