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「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」
構内アナウンスが告げている。
みどりは、ジュンの手を握りしめた。
「ほら、ジュンちゃん」
言って、みどりはそのジュンの手を引いた。みんなの後ろについて走る。
ジュンは、何も言わずにみどりの手を握ったまま横を走っていた。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まっ
てんの。まだ、時間、あるわよ」
前のほうで美香が言った。言いながら走っている。
とうとう見つけたんだ、とみどりは走りながら微笑んだ。
こんなに幸せなことは、生まれてはじめてだった。
「いつまでもこうしていよう」
ベッドで、ジュンからそう囁かれたとき、それがプロポーズの言葉だと
わかるまで、少し時間がかかった。そうだということがわかって、とたん
に涙が出てきた。
嬉しくて、嬉しくて、幸せで、嬉しかった。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
アナウンスが乗客を急かすように言っている。
先頭車両のドアで、鏡くんがみんなを車内に誘導していた。
「はい、乗った乗った」
みどりはジュンと一緒に真紀ちゃんの後ろについた。
きっといい奥さんになる。
みどりは、胸の中で自分にそう言った。
みんなだって、こんなに喜んでくれているんだもの。幸せにならなくち
ゃ。そうじゃなきゃバチがあたる。
どうぞ、と言うように鏡くんが微笑みながらドアの中へ手をさしのべた。
「どぉも!」
みどりは、声を上げてジュンと一緒に電車に乗り込んだ。
みんなが、二人を祝福するように見つめてくれていた。
「なんだ? みなさん、座らないの?」
鏡くんが、言いながら乗ってくる。
「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
鏡くんは、みどりとジュンに言った。
「いや、その、主役って」
ジュンが照れたように頭をかいた。
みどりは勧められるまま、座席にジュンと並んで腰を下ろした。ジュン
と握り合った手を、スカートの上から、ギュッと自分の太股に押しつけた。
鏡くんがニコニコと笑いながら、みどりを見た。
えへ、と笑ってみどりは舌を出した。
あたし、最後に、一番いい人に巡り合ったんだ。
思いながら、みどりはジュンの手を強く握りしめた。
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