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ホームに出たとたん、鏡さんが声を上げて走り出した。
「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」
おう、と奈良岡さんが応えるようにして、駆け出す。
慌てて美香は、奈良岡さんに遅れないように走った。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まっ
てんの。まだ、時間、あるわよ」
言ったが、鏡さんも奈良岡さんもまるで足を緩めようとはしなかった。
幸せそうだなあ、と美香はさっきのみどりちゃんと湯川さんの表情を思
い出しながら、自分の頬をほころばせた。
とってもうらやましい。
だけどあたしだって――。
と、美香は隣を走っている奈良岡さんに目をやる。
あたしだって、幸せになるもん。
あたしには、奈良岡さんがいるんだもん。
つい、顔が笑ってしまいそうになる。
つきあってみると、奈良岡さんって、ちょっと変態っぽいところがあっ
てびっくりしたけど、でも二人の間なら、どういうゲームがあってもいい
よね。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」
アナウンスが言った。
慌てて、近くのドアに乗りそうになったけれど、奈良岡さんは鏡さんの
押さえているドアのほうへ走っていく。美香は、懸命になって走った。
「はい、乗った乗った」
鏡さんがふざけて言い、美香はクスッと笑った。
電車に乗り、奈良岡さんの横に並んで他の人たちが乗ってくるのを待っ
た。
奈良岡さんは、いつもドキドキするようなことをさせるんだもの。昨日
も、すごくエッチな写真を撮られちゃったし。
さっきだって、みんながいるところで、内ポケットからあの写真を出し
てあたしに見せたりする。真っ赤になっちゃった。ひどいよ、あんなこと。
誰かが気がついたらどうするの?
でも、奈良岡さんがすると、そういう変態チックなことも楽しくなっち
ゃうから不思議だな。
「なんだ? みなさん、座らないの?」
最後に乗り込んできた鏡さんが、またふざけながら言った。
「こんなに座席が空いてるのに。ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
「いや、その、主役って」
湯川さんは照れながらみどりちゃんとシートに腰を下ろした。
思わず拍手したいような気持ちになった。
他のみんなに気づかれないように、美香はそっと奈良岡さんの腕に寄り
添った。
とっても、素敵な気持ちだった。
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