 | 24:07 神田-三越前 |
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門田がニタニタ笑いながら、ヒョイと首をすくめた。 「ヘラヘラ笑ってなんかねえよ」 「笑ってるだろ」と、道博は顎をしゃくり上げた。「どうやっても、その顔が泣いてるようには見えない。平気なのかよ、おまえ」 「あの子は、どっちかって言うと、オレより大樹向きだよ。うん」 「ようするに、惚れてたってことじゃないのか」 「惚れてた――すげえ、古風な言葉」 「…………」 門田につっこまれて、道博はぐっと言葉を呑んだ。 ふらふらと首を振りながら、門田は道博と櫛部を見比べた。 「だって、べつにオレ、彼女とか、そういうんじゃないもの。もともとが」 「うそつけ」と、道博は言い捨てた。「付き合ってるって言ってたじゃないか」 「付き合ってたよ」と門田が眉を上げる。「付き合ってたけど、彼女ってわけじゃない」 「なんだ、それ」 「そういうの、ないかよ。彼女とか何とかじゃなくて、軽く付き合うって」 「だって、お前、その……」 と道博は、声を落とした。チラリと、櫛部のほうを見る。櫛部は、ムスッとした表情で、門田をにらみつけていた。 「だから、その、さ。お前、いくとこまでは、いったわけだろうが」 ぷーっ、と門田が吹き出した。ヤツのほうも櫛部に目をやり、いやいやと笑いながら首を振った。 「涌島、お前、明治生まれなんじゃないの？」 「……なんだよ」 「いくとこ、ね。まあ、つまり、大樹とオレは、兄弟ってわけだな。なんつったっけ？ 同じ穴のムジナ？」 ひっひっひ、と門田は笑う。 「おい」 いきなり、櫛部が門田の胸のあたりを押した。 門田は、押されてふらつきながら、顔の前で手をヒラヒラと振った。 「わるい、わるい。涌島が言わせるからだよ」 どうしようもないヤツだ、と道博は門田を見返した。 ようするに、遊びだから、べつに未練も心残りもないってわけか。 ふと、道博は視線を宙に上げた。 未練……心残り……これも古風な言葉かな。 だいたい、オレだけ、その元門田の遊び相手、現櫛部の彼女という女を見たことがないのだ。 確かあれは……と、道博はさっきから黙ったままの宮地に目を向けた。 「よう――」と言いかけたとたん、車内アナウンスがしゃべりはじめた。 「まもなく三越前、三越前でございます。なお、半蔵門線鷺沼行の最終電車をご利用のお客様は、表参道でお乗り換えください。水天宮前行の電車は終了しておりますからご注意願います。三越前でございます」 宮地が道博を見ていた。 道博は、ああ、と気づいて言葉を続けた。 「宮地は、彼女ってのに会ってるんだよな」 「――うん」 「ディスコで門田がナンパしたって言ったっけ？」 「……オケ」 ぼそっと宮地が答えた。聞き取れなくて、道博は宮地のほうへ上半身を寄せた。 「カラオケだよ」 と、門田が宮地の代わりに答えた。 「ああ」と道博はうなずいた。「年上なんだろ？ 彼女」 「電機メーカーに勤めてる」と櫛部が続けた。「向こうが３人で、こっちも門田と宮地とオレと３人だったから、一緒にどうですかって言って。それで知り合ったんだ」 「あとの２人は、どうだったの？」 「どう、って？」 「その彼女だけだったわけ？ そのあとも続いたって」 「ああ――」 門田が、だめだめ、というように手を振ってみせた。 「他の２人は、まるっきりオレらを子供扱いだから。向こうは勤めてるったって、２つか３つしか違わないんだけどな」 「じゃあ、門田が遊びだったって言うより、その彼女のほうが遊びだったんだ」 「そ、そ、そ」と、門田はニタニタ笑いながらうなずいた。「遊ばれちゃったわけよ。遊ばれて、あきたら、ポイッてな」 「じゃあ、あれじゃん」と、道博は櫛部に目をやった。「櫛部にしたって、遊ばれてるだけってことかもしれないじゃん」 「…………」 櫛部が、黙ったまま見返してきた。 「ま、ま、ま」と、門田が道博の肩をたたいた。「相手がオレだったから、あちらも遊びだったってことでさ。大樹の場合は、違うよ、そりゃ。な？」 最後のところは櫛部に言ったが、櫛部は門田の言葉になにも答えなかった。 「あのさあ」 宮地が、ぼそっと言った。 ３人が宮地に目をやった。 |
 | 門田 |  | 櫛部 |  | 宮地 |