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面白いことになってきた……。
ホームを歩きながら、小早川は胸の動悸が高まってくるのを感じていた。
こいつは、ちょっとした判じ物じゃないか。
「どうやって、一本にまとめるつもりなんですか?」
隣を歩いている関万里子が話しかけてくる。
小早川は、ふーっ、と息を吐き出した。
「それを考えてるんだ」
「まとまるもんじゃないぜ。どう考えたって」
根本陽広が寝ぼけたような声を出して言った。
まとまるもんじゃない……。
根本の言葉を口の中で繰り返しながら、小早川は足を止めた。
「おかしいよね。どうして、こんなに一人一人の証言が違っちゃうの?」
武藤薫が、不満そうな口調で言う。
小早川は、午後に見た事件現場の状況を頭に浮かべながら訊く。
「万里ちゃん、もう一度訊くが、あの奥さんはいきなり背後から暴漢が襲っ
てきたって言ったんだよな」
「そうです」と、万里子が答える。「赤いクルマが停まって中から大きな男
が降りてきて、ご主人の背中を刺して、またクルマに乗って逃げて行ったっ
て」
停まって、降りてきて、刺して、乗って、逃げた?
もっとスマートな言い方ができないのか、こいつ。小学生の作文じゃない
か。
「ケーキ屋のオヤジは、クルマの男が背中を刺す前に、主人と奥さんの間で
言い合いをしていたようだと言ってる」
根本が、あくび混じりに言う。
「その言い合いのことは、奥さんは言ってないんだね」
もう一度、万里子に訊いた。
「ええ……いきなりのことだったから、わけがわからなかったって」
食い違い、その1。
小早川は、ポケットに突っ込んでいる左手の指をひとつ折った。
薫が、全員を見渡した。
「喫茶店のウエイトレスが見たのは、クルマの脇から走り込んできた小柄な
男が、ご主人に後ろからぶつかっていったって。だから、彼女はてっきりそ
の小柄なほうが刺したんだと思ったって」
その通り。
と、小早川は、もう一本指を折る。
食い違い、その2。
面白い。こいつは、面白い。
思わず、首の後ろをなで上げた。
「どうなってるんだ?」
と、根本が言う。
だから、面白いのさ。と、小早川は、一人うなずいた。
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