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かみ殺したつもりのあくびが、どうにも押さえきれずに口から漏れた。
睡眠不足が続いている。今日も、こんな調子だと、布団に潜り込めるのは
いつになるだろう。
元気良くホームを歩いている仲間たちを眺めながら、根本は両手で顔をひ
と撫でした。
どうして、こいつらはこんなに張り切っちゃってるんだ? 人間は疲れる
ものだってことを知らないのか?
「どうやって、一本にまとめるつもりなんですか?」
万里子が小早川に訊いている。とても元気だ。
「それを考えてるんだ」
小早川は、あたり前のことを答えている。やはり元気だ。
「まとまるもんじゃないぜ。どう考えたって」
元気をなくしている根本は、訴えかけるように言った。
全員の足が止まる。ああ、ありがたい。ついでに椅子を持ってきてくんな
いかな。
「おかしいよね。どうして、こんなに一人一人の証言が違っちゃうの?」
薫ちゃんが口をとがらせながら言った。やっぱり元気だ。みんな、とって
も楽しそうですね。
「万里ちゃん」と小早川が言った。「もう一度訊くが、あの奥さんはいきな
り背後から暴漢が襲ってきたって言ったんだよな」
「そうです。赤いクルマが停まって中から大きな男が降りてきて、ご主人の
背中を刺して、またクルマに乗って逃げて行ったって」
その奥さんの言ってることって、かなりおかしいぜ。
昼間の取材を思い出しながら根本は首を振った。
「ケーキ屋のオヤジは、クルマの男が背中を刺す前に、主人と奥さんの間で
言い合いをしていたようだと言ってる」
ふむ、と小早川がうなずいた。
「その言い合いのことは、奥さんは言ってないんだね」
「ええ」と万里子もうなずいた。「いきなりのことだったから、わけがわか
らなかったって」
また、あくびが出そうになる。
薫ちゃんが、張り切って肩の髪を指で跳ね上げた。
「喫茶店のウエイトレスが見たのは、クルマの脇から走り込んできた小柄な
男が、ご主人に後ろからぶつかっていったって。だから、彼女はてっきりそ
の小柄なほうが刺したんだと思ったって」
まいったね、と根本は眼を閉じた。
「どうなってるんだ?」
眠かった。布団がほしかった。
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