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謎に包まれた真昼の殺人――か。
薫は、ホームを歩きながらそっと唇を噛んだ。
いや、真昼の殺人、よりも衆人環視の殺人のほうがいいかな。
「どうやって、一本にまとめるつもりなんですか?」
前で万里っぺが小早川さんに訊いている。
「……それを考えてるんだ」
小早川さんは、そう答えた。
まとめることなんてないじゃない、と薫は、クイッと顎を上げた。謎は、
謎のまま出しちゃえばいいのよ。そのほうが面白い。
「まとまるもんじゃないぜ。どう考えたって」
根本君があくび混じりの声で言った。
そうそう、まとめることないのよ。
全員が足を止め、薫もそこに立ち止まった。
「おかしいよね。どうして、こんなに一人一人の証言が違っちゃうの?」
ウキウキした気持ちをなるべく抑えながら言う。
「万里ちゃん、もう一度訊くが、あの奥さんはいきなり背後から暴漢が襲っ
てきたって言ったんだよな」
小早川さんは、確認が好きだ。事実関係を何度も何度も確かめる。
「そうです。赤いクルマが停まって中から大きな男が降りてきて、ご主人の
背中を刺して、またクルマに乗って逃げて行ったって」
隣で根本君が首を振った。
「ケーキ屋のオヤジは、クルマの男が背中を刺す前に、主人と奥さんの間で
言い合いをしていたようだと言ってる」
「その言い合いのことは、奥さんは言ってないんだね」
小早川さんが、また万里っぺに確認する。
「ええ……いきなりのことだったから、わけがわからなかったって」
謎はまだあるじゃないの、と薫は全員を見渡した。
「喫茶店のウエイトレスが見たのは、クルマの脇から走り込んできた小柄な
男が、ご主人に後ろからぶつかっていったって。だから、彼女はてっきりそ
の小柄な男が刺したんだと思ったって」
ふわあ、と根本君があくびをした。
「どうなってるんだ?」
ほんと、と薫はうなずいた。
どうなってるんだろ、この事件。
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