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ホームには、パラパラと利用客たちの姿が見えていた。電車は来ていない。
つい、隣の小早川を見つめてしまう。先ほどから、彼は口を閉ざしていた。
後ろで根本が間の抜けたようなあくびをするのが聞こえた。
「どうやって、一本にまとめるつもりなんですか?」
つい、口に出して訊いた。
小早川は、ふう、と息を吐き出し、万里子にチラッと目を返してきた。
「……それを考えてるんだ」
「まとまるもんじゃないぜ。どう考えたって」
根本がウンザリしたような声で言う。
小早川に合わせて歩みを止めながら、薫が誰にともなく続ける。
「おかしいよね。どうして、こんなに一人一人の証言が違っちゃうの?」
万里子と薫を、小早川と根本の2人が挟み込むような形になった。
薫の言う通りだった。関係者の言うことが、ことごとく食い違っている。
これを、どんなふうに記事にまとめればいいのだろう。
「万里ちゃん」と、小早川が足下を見つめながら言った。「もう一度訊くが、
あの奥さんはいきなり背後から暴漢が襲ってきたって言ったんだよな」
万里子はうなずく。被害者の奥さんから話を聞いたのは万里子だった。
「そうです。赤いクルマが停まって中から大きな男が降りてきて、ご主人の
背中を刺して、またクルマに乗って逃げて行ったって」
根本が向こうから割り込んでくる。
「ケーキ屋のオヤジは、クルマの男が背中を刺す前に、主人と奥さんの間で
言い合いをしていたようだと言ってる」
「その言い合いのことは、奥さんは言ってないんだね」
「ええ……いきなりのことだったから、わけがわからなかったって」
それを言ったときの奥さんの表情が目に浮かぶ。
「どうして」と、奥さんは言った。「どうしてこんな目に遭わなきゃならな
いんですか?」
薫が、長い髪を後ろへ跳ね上げた。
「喫茶店のウエイトレスが見たのは、クルマの脇から走り込んできた小柄な
男が、ご主人に後ろからぶつかっていったって。だから、彼女はてっきりそ
の小柄なほうが刺したんだと思ったって」
小早川が、首の後ろをゴシゴシと撫でた。
「どうなってるんだ?」
根本が言った。
全員の気持ちを代表して言ったような感じだった。
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