『中国青銅器入門』「こういう本が欲しかった!」僕の正直な感想です。というのも、数ヶ月前に京都の泉屋博古館に行ったばかりで、そこで見た、中国古代の青銅器にすっかりやられてしまっていたからです(いい意味で)。
 
 
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とんぼの本編集室だより 2023/02/08
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『十二国記』の強大な妖魔、饕餮とうてつの文様ここにあり!
『太古の奇想と超絶技巧
 中国青銅器入門』

山本堯/著
【書評】
これであなたも“青銅器酔い”!?
片桐仁
「こういう本が欲しかった!」
 僕の正直な感想です。というのも、数ヶ月前に京都の泉屋博古館に行ったばかりで、そこで見た、中国古代の青銅器にすっかりやられてしまっていたからです(いい意味で)。でもその素晴らしさを人に伝えようとしても、まー伝わらない伝わらない……。「銅鐸みたいな感じ?」とか言われちゃう。当たらずといえども遠からずですが……。
 おおよそ我々がイメージしている、具体的でキッチリした作りの“中華風”とは全く異なる古代青銅器たち。日本だと“和風”とは程遠い、縄文土器や土偶とどこか通じる感じがして、縄文好きとしては気になっていたんです。ただ、土器じゃなくて鋳物なので、原型は同じ粘土でも、それを元に型を作ってそこに青銅(銅と錫の合金)を流し込んで作っているっていうんですから、ものすごい超技術にクラクラしちゃいます。しかも作られたのは3000年前って……。こちとら本当に縄文時代ですよ!! どゆこと??
 きっかけは数年前、この本にも載っている「双羊尊」(2匹の羊が背中合わせになった酒器)を東京の根津美術館で見たことでした。「こんなの見たことない!」と、学芸員さんに話を聞くも、殷の時代後期に身分の高い人が使ったのではと言われているけど、どう使われたかはよく分からない、とのこと。すぐに粘土でマネしましたけど(「双羊晶」という、背中合わせの羊の真ん中に水晶が乗せられた作品。ほぼそのまま双羊尊)。
 そんな気になる青銅器を、泉屋博古館で初めてまとめて見たわけです。膨大な青銅器たちが鎮座ましますなか、「双羊尊」のように、2羽のフクロウが背中合わせになった「戈ユウ」や、虎が人間を抱え込んだ形の「虎ユウ」、カレールーを入れる器(グレイビーボート)みたいな「イ」など、まずその個性的なシルエットに魅了されます。
 そして外観は虎やフクロウなのに、その表面をよく見ると、「饕餮とうてつ」に代表される様々な怪物や動物が、タトゥーのように盛り込まれています。さらによ~く見ると、その隙間はびっしりと渦巻き模様で埋め尽くされていて、“青銅器酔い”(縄文酔いと似た感じ)してしまいました。見れば見るほどその“宇宙観”にやられてしまいました……。

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 そこへ「どうです? 青銅器、スゴいでしょ」と現れたボランティアガイドさん。はい、青銅器をこんなにいっぱい見たのは初めてです! 「でも大丈夫? 私なんか青銅器に認められるまで、半年以上かかりました」……は? ご自分が認めるんじゃなくて? 「最初は青銅器の力が恐ろしくて、直視出来ませんでした。半年ぐらい勤めて、やっと落ち着いて見られるようになりました。それだけオーラがスゴいんです」……確かに、僕もちょっとクラクラ来てます。認められたかどうかはさておき、京都の静かな美術館でこの熱量は凄まじいと思いました。そこから一点一点の解説が始まります。「饕餮みたいな怖いもので覆うことで、魔除けにしたんでしょうな~。でもこれカワイイ顔」「青銅の太鼓、澄んだええ音鳴るんです~。私は聞いたことないけど」「虎ユウの虎さん優しいお顔。人間の子を育ててるんでしょうな~」 ……真偽のほどはさておき、青銅器に対する愛情が伝わってきました。そこでハッと気付きました! 事実はもちろん大事だけど、データを知ろうとばかりするよりも、今見ている作品を素直に感じればいいんじゃないかと……。ただ、誰が何のためにこんなものを、どうやって作ったの? 内側に鋳込まれた文字は漢字? などなど、いろいろ気になりまくっているのも事実……。
 そんなモヤモヤを受け止めてくれたのが本書『太古の奇想と超絶技巧 中国青銅器入門』です! このガイドブックでは、まず「鬲」「キ」「罍」など、読みにくい漢字続出の“器種の分類”に始まり、“文様やモチーフの謎”もクローズアップ写真で分かりやすく解きあかしてくれます。饕餮文に代表される奇獣たちを各種無数に入れ込み、キメラにすることで聖なる力を持ったのではないか?など、気になるお話が。さらに、一部の青銅器に鋳込まれた文字「金文」から古代中国史をひもといてくれます。
 中に挟まるコラムも面白くて、古代中国を描くドラマでは「爵」が宴会の盃として使われるけど、あれはお酒を直火で温めるためのモノというのが現在の定説とか。底にべったりと煤のついた青銅器の出土によって、それが事実であることが証明された、というお話も興味深かったです。
 また、鋳込まれた金文を復元する、鋳造実験を実際にやってみたリポートを読むと、それはそれは面倒な工程で、当時の鋳造技術がいかに超絶だったかが実感できました。
 さらにさらに日本で青銅器が見られる美術館・博物館マップまで付いていて、こんなガイドブック、今までなかった。今後もそうそうないと思います。
 しかも関東在住の人に朗報! この本に載る青銅器のなかでも選りすぐりの逸品が、泉屋博古館東京で見られるんですって(2月26日まで)。この本を読んで、ぜひ実物の青銅器を見に行って欲しいです!
(かたぎり・じん 俳優/造形作家)
波 2023年2月号より

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【編集部より】
見れば見るほど仰天必至! 三千年前の青銅器ワールド
 二人で話すのは対談で、三人なら鼎談ていだん。その言葉が「鼎」という三本足の中国青銅器に由来するって、ご存じでした? 「かなえ軽重けいちょうを問う」なんて故事成語もありますよ。
 あるいは、小野不由美さんの『十二国記』に登場する妖魔・饕餮とうてつ。中国古代の青銅器にも「饕餮もん」と呼ばれる怪獣の顔のデザインがあって、これがいろんな器で睨みをきかしています。
 そんな中国青銅器は、三千年ほど前、祖先を祀る特別な器として作られたもの。奇想天外な造形に加え、銘文は古代史の記録でもある。ぜひとも本書で、驚異の青銅器世界への扉を開いてみて下さい。泉屋博古館東京の「不変/普遍の造形─住友コレクション中国青銅器名品選─」展(~2月26日)鑑賞のお供にもどうぞ。
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『太古の奇想と超絶技巧 中国青銅器入門』
山本堯/著
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【とんぼの本棚から/好評既刊】
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『台北 國立故宮博物院を極める』
板倉聖哲、伊藤郁太郎/著
中華文明八千年の美の殿堂を丸ごと案内!
“人類の至宝”である北宋山水画、王羲之おうぎしに始まる名筆の系譜、幻の青磁・汝窯じょようの凄さ。玉器・青銅器から書画まで、必見の作品を美術史の流れを踏まえ平明に解説。故宮ひいては中国美術を堪能するための必携本。
書籍詳細・試し読みへ
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『やさしく極める“書聖”王羲之』
石川九楊/著
中国書史はここから始まった?
王羲之はどこがどのように優れて「書聖」と讃えられるようになったのか。天なる神との契約のために生まれた神聖文字にはじまる書の歴史の中から、王羲之のまことの像を書家・石川九楊が解き明かしていく。
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